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人間国宝から直に学ぶ 伝承者養成研修、57人修了 躍動する若手(2)<新時代・国立劇場おきなわ20年>2


人間国宝から直に学ぶ 伝承者養成研修、57人修了 躍動する若手(2)<新時代・国立劇場おきなわ20年>2 研修生を指導する講師の宮城能鳳(手前右)ら=11日、浦添市の国立劇場おきなわ
この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

 「形はできているが、目が落ち着いていない」。表玄関を閉じた木曜夜の国立劇場おきなわ。3階の研修室には「組踊立方」人間国宝の宮城能鳳(85)の声が静かに響いていた。耳を傾ける若い男性たちは「組踊伝承者養成研修」の研修生だ。中堅・若手の活躍の背景の一つには、この研修の成果がある。

 研修は国立劇場おきなわ運営財団が主催し、期間は3年。研修生は立方と地謡に分かれ、実技や講義を受講しながら組踊6作品を習得する。劇場が開場した2004年の翌年から研修は始まった。第7期の現在、9人が研さんを積む。取材した日は、発表会で上演予定の組踊「二童敵討」の稽古に励んでいた。立方は配役を変えて90分で通し稽古を2回こなした。地謡は劇中の曲目を練習した。

 講師は宮城のほか城間徳太郎、西江喜春などが並ぶ。人間国宝の技を直々に学ぶことができる。

 1972年の日本復帰時に組踊が国の重要無形文化財に指定された際、歴史的経緯を尊重し、演技・演出は「女方によること」とされた。戦後から不足していた男性立方の育成が急務になり、研修にも託された。

 「10年足らずで育ててみせます」。研修初回から講師を務める宮城は、研修が企画される前、関係者に言い切ったという。舞踊の基礎を重視し、全ての役をこなせるよう若手らに教えた。これまで57人が修了し、女形が評判の演者も出てきた。

 「若手、中堅の実演家たちの活躍ぶりは目を見張るものがある。苦労したかいがあった」。振り返った宮城が笑顔になった。

 研修修了後、修了生でつくる「子の会」が県内の高校などで組踊の上演活動を続けている。企画から場所の選定までの全てを手がけ、上演機会の創出と舞台作りの経験につながる。

 在籍12年で会を卒業する決まりだ。1期修了生で、会の発足にも関わった野村流保存会師範の仲村逸夫(43)によると、若い世代への浸透と組織の硬直化を防ぎ「実演家として自立してほしい」との狙いがある。

 2022年、仲村は1期修了生たちと「古典企画」を結成した。国立劇場や市民会館などにおける大きな公演でも引っ張りだこの一方、仲村は「古典企画」として街中にある小舞台での演奏会や無料体験なども手がける。コロナ禍を経験し、舞台以外での伝統芸能継承の必要性を実感しての取り組みだ。仲村が強調した。「自分で舞台を作る経験は、実演家としても大事だ。『子の会』の経験が次のステップにつながった」

 県立芸大3年の翁長俊輔(21)は小学生の頃に演目を見て以来、研修生たちの打ち込む姿に魅せられた。本年度から研修生となり、国立劇場おきなわの稽古場に通う。「琉球芸能を背負う一人になる」。憧れから実現へ。日々、進化を続ける。

 (田吹遥子)