<金口木舌>最低限のモラル


社会
<金口木舌>最低限のモラル
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 「お上の事には間違いはございますまいから」。森鷗外の小説「最後の一句」に出てくるせりふだ。きょうだいで命を差し出し、死罪を言い渡された父の命乞いをする。それでもよいのか、という役人の問いかけに、娘のいちが言い足した言葉だ

▼いちの「一句」は、お上に間違いはないという役人の思い上がりへの抵抗、鋭い皮肉となった。憎悪を帯びたいちの目に驚いた役人は、父親の死罪を見送る
▼江戸時代中期を舞台としたこの作品は、鷗外自身の社会批判も込められているとされる。それは今日にも通じよう。私たちは政治の大きな過ちを目の当たりにしている。自民党派閥の裏金問題はその一つ
▼市長のセクハラ疑惑で揺れる南城市議会も「お上」の集まりだが、議会が執行部の監視機能を果たしているとは言い難い。疑惑を解明する第三者委員会の設置に、多数の議員が消極的だ
▼間違いを認めることは、民の上に立つ「お上」が心得るべき最低限のモラルであろう。民はひそかに「最後の一句」を用意していることを忘れてはならない。