<金口木舌>持たされた鞄の重さ


<金口木舌>持たされた鞄の重さ
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 ドキュメンタリー映画「大地を受け継ぐ」(井上淳一監督、2015年制作)は、東京電力福島第1原発事故で被災した農家の樽川(たるかわ)和也さんの苦悩と再生を描く。事故後、農業団体から野菜の出荷停止を命じられ、父は自ら命を絶った

▼和也さんは除染が進む土地を耕し、野菜を作り続ける。災害に襲われ、国策に翻弄され二重三重の苦しみを背負う。樽川さんの姿に沖縄を重ねた
▼きょう日本復帰から52年を迎える。台湾有事が喧伝され、「新しい戦前」を思わせる軍備増強が進む。沖縄が背負わされた荷物はますます増えている
▼「次々と仲間に鞄持たされて途方に暮るる生徒沖縄」。名護市在住の歌人・佐藤モニカさんの歌集「夏の領域」(本阿弥書店)に収められた一首。「仲間」は冷酷だ。沖縄の不条理を切り取った
▼本紙の「琉球歌壇」で出合った歌がある。「戦場よりはい上がりたる島人は基地の鎖を明日も引きづる」。知念清栄さんが詠んだ。1972年2月の作品である。鎖は今なお沖縄の足かせとなり平和を、発展を阻んでいる。