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幻のラストに衝撃 真喜志康忠生誕100年 「落城」60年ぶり上演


幻のラストに衝撃 真喜志康忠生誕100年 「落城」60年ぶり上演 時代劇「落城」で真鍋樽(左・小嶺和佳子)が自身の依頼に従った真壁(嘉数道彦)を刺すラストシーン=6月8日、浦添市の国立劇場おきなわ
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 沖縄芝居の名優で重鎮・真喜志康忠(1923~2011年)の生誕100年記念公演が6月8日、浦添市の国立劇場おきなわで開かれた。康忠作の時代劇「落城」を60年ぶりに上演した。台本に残っていない“幻のラストシーン”が披露され、観客は衝撃的な展開と俳優たちの熱演にあっと息をのんだ。

 康忠は26歳で「ときわ座」を旗揚げ。役者だけでなく劇作家や演出家としても活躍した。康忠らが新たな沖縄芝居を生み出そうと設立した「沖縄芝居実験劇場」が、今回の舞台制作を担当した。

 公演は、沖縄芝居実験劇場代表の玉城盛義による「浜千鳥」など舞踊4題で幕開け。続いて喜歌劇「元の若さ」(康忠脚本・構成)を上演した。辻遊郭に入り浸る息子(上原崇弘)を心配する妻(高里風花)やアヤー(嘉数好子)に頼まれ、ターリー(高宮城実人)が息子を取り戻そうと訪れたが、自分も昔の尾類アンマー(瀬名波孝子)に会い、入り浸ってしまう。嘉数と瀬名波の熟練した掛け合いが見応えがあった。

 「落城」は、幸地按司(宇座仁一)が、じちんだ按司(東江裕吉)の娘・真鍋樽(小嶺和佳子)を妻にするため、じちんだ城を攻め滅ぼした後から始まる。真鍋樽はじちんだ按司を救うために幸地按司の妻となるが、じちんだ按司は一向に解放されない。2人とも殺されると危惧した乳母(玉城千枝)は、幸地按司の重臣の真壁(嘉数道彦)を色仕掛けで味方にし、幸地按司を討たせる計画を提案する。計画通り真鍋樽に恋した真壁は、幸地按司を討ち取る。

 直後に、真鍋樽が真壁を刺し殺す衝撃の展開で幕を閉じた。裏切られた真壁の「なぜ」という心境を、嘉数が迫真の演技で訴えた。真鍋樽は刺した後、泣きそうな顔で後ずさりし、真壁の亡きがらに打ち掛けをかける。芯の強さだけでなく、情も垣間見える小嶺の演技が胸に迫った。

 「落城」は、1958年第3回琉球新報演劇コンクールでときわ座が上演し入選した作品。シェークスピアの「マクベス」や組踊「大川敵討」の影響を受けている。当時は真鍋樽が刺し殺す展開だったが、台本に残るラストでは、真壁は幸地按司の家臣と相討ちになる。今回は、元ときわ座の玉城政子の指導で、政子が真鍋樽を演じていた当時の「真鍋樽が刺し殺す」展開を採用し、台本にはないラストを復活させた。

 真鍋樽を演じた小嶺は「最初は真鍋樽の気持ちが分からず戸惑った」と振り返る。だが、玉城盛義らの助言で「真鍋樽の行動がじちんだ按司を守るためだと思うと腑に落ちた」と話し「真鍋樽が刺すという演出のおかげで脚本を読み込むことの大事さも感じた。解釈の幅も広がり、やりがいがあった」と語った。

 「『沖縄芝居』にこだわるということは沖縄にこだわるということ」。沖縄芝居実験劇場の挑戦が伝わる本公演には康忠の思いも継がれていた。 

(田吹遥子)