<金口木舌>アジサシ 愛の季節


<金口木舌>アジサシ 愛の季節
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 名護市源河の沖合にウトゥフイジー(夫振岩)と呼ばれる岩礁がぽつんと浮かぶ。仲の悪かった男女を村の人が岩に置き去りにしたところ、仲が良くなったとの逸話が残る

▼「羽地の民話」(名護市史編さん室編)に収録され、源河では岩礁を「恩義のある石」とも呼ぶそうだ。沖縄芝居でも夫婦愛が深まる時代明朗歌劇として、親しまれている

▼夫振岩をはじめ屋我地や羽地一帯の岩礁に愛の季節がやってきた。夏鳥のエリグロアジサシやベニアジサシが岩の上で営巣、子育ての真っ最中だ。今月4日、環境省の調査に同行したところ、かわいいひなの姿も見られた

▼屋我地鳥獣保護区管理員の渡久地豊さんによると、アジサシ類の繁殖で脅威となるのは人間だという。釣りなどレジャーで岩礁に上陸したため、子育てを放棄した例もある

▼オーストラリアやインドネシアから渡ってきたアジサシ類の繁殖期は9月ごろまで。アジサシの夫婦仲を裂き、種の持続を妨げるのが人間でいいはずがない。繁殖期の間は岩礁の営みをそっと見守ってあげよう。