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10年後の沖縄で花を咲かせる、「ぬちぐすい」で社会と医療をつなげる活動を 真喜志依里佳さん


10年後の沖縄で花を咲かせる、「ぬちぐすい」で社会と医療をつなげる活動を 真喜志依里佳さん
この記事を書いた人 琉球新報社

 グローバル・シェイパーズ・コミュニティー沖縄ハブ(GSCO)でインパクトオフィサーを務める医師の真喜志依里佳さん(27)。現在は県立八重山病院総合診療科に勤務しながら、沖縄を想う医療コミュニティー「ぬちぐすい」の代表を務める。小学生の頃に読んだマンホールチルドレンの本を機に医師を志した。「すべての人にとっての居場所を作りたい」という思いを胸に、患者と向き合っている。

(事業グループ 吉原玖美子)

 海外・アジアに貢献できる仕事を目指す

 小学6年生のとき、モンゴルのマンホールチルドレンに関する本を読み、同年代の子どもたちが衛生環境が悪く危険な場所で生活していることに衝撃を受けた。将来は「海外やアジアで貢献できる仕事に就きたい」と思うようになり、医師を志す。

 琉球大学医学部に進学した真喜志さんは、医学を学ぶ傍ら、タイやミャンマーなどに行き、難民キャンプや無医診療所、孤児院などを訪れる。医学部5年生までは、マラリアやエボラなど輸入感染症や公衆衛生学に精通する感染症専門医を目指し、熱帯医学や感染症の勉強に力を入れていた。沖縄県で感染医療に従事する県立中部病院感染症内科医の高山義浩氏に話を聞いたこともあった。

 転機となったのは医学部6年生。

 医学生らが入ったオンラインコミュニティで毎晩、社会の勉強をしながら語り合った。その中で患者の持つ心理社会的な背景を考慮した医療を行う総合診療に出会った。離島の多い沖縄では診療所やへき地で治療を必要とする人や、生活習慣病になる人が多くいる。

 これらの問題と向き合うため、病気の予防から治療まで一貫して対応するプライマリケアを掲げる総合診療医を目指すことを決めた。

 また、医学部在学中にてだこレディ(現・浦添市てだこ大使)に選出され、浦添市を国内外にアピールする活動をした。周囲の反応はさまざまだったが、この経験を機に沖縄に貢献する人になりたいと考えるようになった。

 研修先で見えた医師のあり方

 琉球大学医学部を卒業後は、愛知県名古屋市の病院で初期臨床研修を受けた。全国各地の病院を回り、決めた研修先。そこでの2年間は医師としてのあり方が見えた。

 研修医生活を送った病院では、カフェやパン屋、フィットネスクラブなどがあるほか、研修医1人1人に担当地域を割り振り、出張で健康講座などを開催する地域に開かれた病院だった。地域の人も体操やヨガなどを開催している。また、アルコール依存症や社会的孤独などを抱える人を、地域の人とのつながりで治すことができている地域だった。

 病院の庭には地域の人が耕す畑もあった。地域に根差し、地域の人に親しまれた病院での2年間は忙しくも充実していた。

 同時に、沖縄の健康問題に目を向けるようになった。

 医学には「健康の社会的決定要因(SDH)」という言葉がある。「健康の社会的決定要因」とは、病気の背景に生活環境や教育、経済格差など社会的要因が存在すると言われている。

 沖縄では、教育や貧困問題、車社会による運動不足などさまざまな健康問題がある。

 2021年12月、真喜志さんは、沖縄を想う若者をつなぎ、沖縄の健康問題をさまざまな社会問題と紐づけて考えるコミュニティー「ぬちぐすい」を設立。コミュニティー名は、心や体を元気にしてくれる食べ物や体験、心の癒しを意味する「命薬(ぬちぐすい)」から名付けた。

 「10年後、沖縄で花を咲かせよう」を合言葉に全国各地で働く23人のメンバーと共に月に1回、メンバー同士の交流、行政や環境団体による講話を開催している。真喜志さんはコミュニティーを通して「今はそれぞれの場所で頑張っているメンバーが10年後の沖縄で夢を叶えられるような土壌を作りたい」と語る。

 誰もが幸せで健康に暮らせる医療を

 真喜志さんは2年間の研修医生活を終えた2023年4月、沖縄県立八重山病院の総合診療専門研修プログラムに在籍し、日々研さんを積む。

 総合診療専門研修プラグラムでは、八重山病院と離島の診療所に勤務をする。現在は、離島での診療所勤務に備え、八重山病院で内科や救急、小児科などの研修を受けている。

 名古屋から石垣島に引っ越して驚いたことがあった。何十年も未受診で突然倒れて運ばれる人や、診察までの待ち時間が長く、怒って帰る患者もいる。

 地域との距離を感じたと同時に、沖縄の健康問題を肌で感じた。

 これらの問題を解決しようと、若手起業家ら有志によるチーム「Project50」に参画し、50年後の沖縄の健康・医療分野の提言書作成に携わっている。

 真喜志さんは医師でありながら、病院が苦手という。「将来、誰もが気軽に訪れ、心身が癒される。人々の憩いの場となる場所を作りたい」と語る。一人ひとりの体質に合わせて生活習慣などの改善を行うだけでなく、病気や健康のことを考えなくても自然と健康的な行動や生活習慣ができる「ゼロ次予防」から患者とコミュニケーションを取っていきたいと考えている。「誰もが幸せで健康に暮らせるような、地域で治し支える医療」を目指し、これからも地域、医療、患者と向き合っていく。

真喜志依里佳 – Erika Makishi – 医師、沖縄医療コミュニティーぬちぐすい代表

沖縄県出身。第40回浦添市観光親善大使てだこレディ。専門は総合診療・地域医療・SDH・プライマリケア。医学生時代は海外の孤児院、学校、無医診療所、2021年に沖縄を想う医療コミュニティー「ぬちぐすい」を創設・運営。また、住むだけで自然と健康になる街づくりに関心を持ち、Street Medical Schoolで医療デザインを学んだ。沖縄の若手起業家ら有志の「Project50」に参画し、次の50年を見据えた医療・健康分野の提言書作成を行っている。