少子化が進む昨今、子どもの公園利用を巡るトラブルが全国で増えている。読者から寄せられた疑問に応える静岡新聞社「NEXT特捜隊」にも、小中学生を育てる静岡県中部の40代女性から「公園に『水遊びご遠慮ください』の札が設けられていてショックだった。どのようにルールが決められているのか調べてほしい」との声が届いた。夏の風物詩とされる手持ち花火は公園で楽しめるのかなども気になる。県内の現状を取材した。(デジタル編集部・金沢元気、安達美佑)
誰もが気持ちよく使える場所に
◆公園と広場の違い
投稿者が「水遊びご遠慮ください」の札を見つけた場所は、都市公園法に基づき自治体が計画的に設置した「公園」と、住民要望により自治体や自治会が整備して設けた「広場」の2カ所。両者は外見上の区別がつきにくいケースもあるが、公園は自治体が主体的に維持管理する一方、広場は自治体の要綱などに基づき、自治会が水道代も含め、維持管理を担っているケースが多い。
投稿者が指摘した2カ所の札について確認したところ、いずれも当該の自治体が設けたものでなく、住民が個人で設置したものとみられ、どちらも社会通念上認められる範囲内の水遊びについて、禁止はしていない。
担当課は直接管理する公園の看板について「住民からの大切な意見だが、勝手に張られるのは条例違反に当たります…」と困惑しつつも、今後対応を検討すると回答。自治会がルールを決める広場については「設置趣旨から著しく逸脱していない限り、自治会に対応をお願いするしかない」と歯切れの悪い答えが返ってきた。
自治体関係者によると、利用時のルールは公園が都市公園法に基づき制定した各自治体の条例で禁止事項などを明確に定めているのに対し、県内の広場には同様の規定がないとみられ、多くは地域の自治会に委ねられている。
国土交通省によると、県内における2023年3月末の公園面積は約3200ヘクタール。約2700カ所が整備されていて、今後も増加傾向という。
一方、県内の広場は主に1960~70年代にかけて、自治体が私有地を借りる形で地域とともに整備を進めた。ただ、現在は維持管理を担う自治会や土地所有者の高齢化などを理由に数が減っているという。名称は「児童遊び場」(静岡)「チビッコ広場」(焼津、島田)「ふれあい広場」(藤枝)など、自治体ごとに異なる。
◆花火は別の場所で
公園と広場の利用方法の違いなどを確認するため、県中部の広場に足を運んでみた。
焼津市の「三和第1ちびっこ広場」には、使用ルールを説明するような看板などは設けられていなかった。隣接スペースには今春に新設されたという遊具もある。近隣住民によると、広い空き地の利用には、地元の町内会に許可を取ってグラウンドゴルフを行っているという。
島田市中溝町のチビッコ広場では、ペットとごみの扱いに関する注意喚起の看板のみ。住民有志が週2回運営する駄菓子屋が入る公会堂に隣接していて、営業日は児童らでにぎわう。藤枝市の時ケ谷ふれあい広場は、犬を連れて入ることなど六つの禁止行為を看板に明記していた。
夏場に人気の手持ち花火については、法令で火気使用を禁止する公園では遊べない一方、広場には特段の規制がないケースもあるとみられる。しかし、県中部のある自治会長は「火を扱うこと自体を想定していない」と否定的な考えを示した。静岡市消防局では、花火は私有地や、禁止看板がないエリアの河川・海岸で楽しむよう呼びかけている。
調査結果を質問者に伝えると、「子どもが自由に外で遊ぶ機会が減っている」と指摘した上で、公園と広場について「子どもも大人も気持ちよく使えるような場所になってほしい」と話した。
子どもの声 騒音と捉えずに
長野市の地元区長会からの要望により設置された「青木島遊園地」が2023年に「子どもの声がうるさい」といった一部住民の苦情をきっかけに廃止となるなど、子どもの声を巡る公園や広場のトラブルは少なくない。県内の自治体によると、住民からの同様の苦情は一定数あるという。一方、政府は同年、「子どもの声は騒音ではない」と法律で定めることを視野に検討に入ったと複数メディアで報じられ、話題になった。
東京都では15年4月、全ての人を対象に騒音の基準適用していた条例を改正し、未就学児の声などを騒音の数値規制対象から外した。運用から9年がたち、都大気保全課は「子どもの声を巡る苦情対応に柔軟性ができた」と手応えを口にする。
県内では人の声など日常生活に伴って発生する「生活騒音」への配慮を定めた条例はあるものの、人の声だけを対象にした条例はない。県生活環境課は「子どもの声を騒音と捉えて対応はしていない」と話す。
「利用価値 地域で高めて」 町田誠・公園財団常務理事
子どもが自由に遊べる公園の在り方について、全国で公園づくりをテーマに講演・講習をする公園財団(東京)常務理事の町田誠さんに聞いた。
―住民要望により民有地などに設置され、地元自治会が運用する「広場」についてどう考えるか。
「自治体が一部でも関わる『広場』そのものを定める条例がなく、要綱のみでの運用は、責任の所在が明確でなく問題だ。自治体が費用を負担して整備したのならば、自治体が議会を通して利用ルールを決める方法などを定めた条例を制定するのが好ましい。全国で話題となった長野市の事例のように、ある日突然子どもの遊び場がなくなる可能性もあり、とてもリスクだ」
―「広場」を都市公園として運用できるのか。
「都市計画区域内にある広場なら、民有地・公有地に関係なく住民の合意形成をとった後、自治体が供用告示して都市公園とすることができる。だが、計画区域外だと都市公園としての運用はできない」
―「子どもの声」を騒音に感じる人も一定数はいる。周辺住民の理解を得るにはどうしたら良いか。
「民間機関が行った『保育園の子どもたちの声をうるさく感じるか否か』という調査で、保育園の隣や向かいの住民は極端にうるさく感じる率が低いという結果がある。園児や保育士との関係も含めて近いと『自分ごと化される』『顔見知りの声は騒音にならない』という仮説が成立するのではないか。コミュニティーが主体的に公園のイベントに関わる場合、騒音の苦情は出にくいと思う」
―公園の利用価値を高めていくにはどうしたら良いのか。
「公園がどれだけコミュニティーにとってなくてはならない『よく使われている状況』をつくり出せているかだと思う。公園管理が自治体の直営管理であれ、指定管理であれ、委託管理であれ、公園をつくって終わりではなく、どれだけ意味のある存在にするかという問題意識を、まずは自治体の方々が持つことが第一歩だと考える」
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