10月31日未明、那覇市の首里城にて正殿などが焼失する火災が発生しました。
原因は執筆時点では明らかになっておりませんが、内部の電源にショートした形跡が複数発見されたとのことで、現在も那覇市の消防局が調べています。
沖縄のシンボルともいえる首里城の正殿が燃えてしまい、多くの人が悲しんだ一方で、世界中から多額の寄付もあり、あらためて首里城の偉大さ、また人々の優しさを実感しました。
この首里城の火災を巡っては、ネット上で多くのデマ、あるいは推測が飛び交いました。原因が明らかになっていないことで、「◯◯が火を付けた」とした意見が出てきたのです。
人々が正確性に欠ける情報を信じ、拡散することで、特定の人物や属性の人が、不当に攻撃され、ネット上で「私刑」にあうことになります。
また人々がデマを信じ、感情が流されると、首里城の復興すら遅れる可能性も心配してしまいます。
毎度おなじみ「犯人は韓国人」「安倍が指示」
今回の首里城火災、報道された直後は出火原因が分からなかったこともあり、色々な推測、うわさがSNSに投稿されました。
「中学生が放火したらしい」「犯人は韓国人」「安倍(首相)が指示を出した」などです。
どれも根拠はないのですが、「中学生が放火したらしい」と「犯人は韓国人」「安倍が指示」の2つは意味が大きく違います。
前者は純粋なうわさであることに対し、後者は投稿者の普段の政治的なスタンスを露骨に投影させているからです。
「犯人は韓国人」と主張する人の論拠はこんな調子です。
「政治的な対立が激しくなり、日本のことを嫌う『反日』韓国人は多い。過去には靖国神社も 『反日外国人』が放火したこともあった。そのほかにも、日本国内で凶悪な犯罪を重ねている。だから今回も韓国人がやったに違いない」としたもの。
一方、「安倍首相が支持を出した」と主張する人の論拠はこんな調子です。
「火災当日辞任した河井前法務大臣の報道を減らすため、首里城の火災を指示した。また、辺野古の米軍基地建設をめぐり、国と対立している沖縄県を屈服させるために首里城を燃やした」としたものです。
両方とも壮大なストーリーを描いていますが、今回の火災の原因である証拠がないため、前者は「ヘイトスピーチ」、後者は「陰謀論」と言い切ってもいいでしょう。
こうした主張はこの首里城の火災に限らず、様々な場面で登場してきます。
「この事件の犯人は外国人」「台風は安倍のせい」と根拠なく、何度も何度も出てきます。
SNSは、自分と考えが近い人たちで交流をし、考え方がどんどんと偏るという特性があります。こうした現象を、「エコーチャンバー」あるいは「サイバーカスケード」と呼びます。
ヘイトスピーチや陰謀論も、単独で見ると信ぴょう性が低くても、SNSでみんなが投稿しているのを見ることで、なんだか「真実」のように感じてしまいます。
首里城火災では、割と早い段階から「出火原因は放火ではなく事故らしい」と報道があったため、「◯◯が犯人」というタイプのデマが爆発的に広がることはありませんでした。
しかしながら、今後も事故や事件、自然災害などで似たデマが広がることが考えられます。SNSで見かけた際は拡散をしないか、「根拠のない情報ですよ」と訂正することをオススメします。
「待つ」姿勢を大切に
デマに惑わされないためには、情報を取捨選択しなければいけません。
何が「事実」で、何が「分からない」のか。何が「筆者の意見」なのか。
同じ記事の中でも、「事実」と「分からない」ことと、「筆者の意見」が混ざっています。(この記事もそうです)
一つの記事、報道で段落ごとにそれぞれ判断し、最終的な自分の考えとして落とし込むことが大事です。
また、分かりやすい結論に飛びつかず、「待つ」姿勢も大事です。
今回の首里城火災は、1週間以上経ってもはっきりとした「出火原因」は分かっていません。ここが判明しないことには、火災の責任は「県」なのか「国」なのかが分かりません。
さらにはどのような消化設備が足りなく、どうしたら防げたのかも分かりません。
ネットやSNSでは、多くの情報がドバッと一気に大量に出てきます。センセーショナルな事件・事故であればなおさらです。
そうなった時に、情報を分解して合理的な判断をするとともに、安易な結論を出さずに情報が出そろうのを待つ。
そうすることがデマやうわさ、不確かな情報を減らし、原因の究明や復興を早める第一歩でしょう。
琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」11月10日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。
親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。
【プロフィル】
モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。