不要な争いを避けるために…知っておきたい遺言書の書き方② 【沖縄の相続】暮らしに役立つ弁護士トーク(13)


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“沖縄の相続問題”のエキスパート・尾辻克敏弁護士の事務所に、遺言について悩む安次嶺さんが相談に訪れました。安次嶺さんは、人に内容を知られないように自分で遺言を作ろうと考えていたのですが、友人に勧められて相談に訪れたようです。
 

メリット・デメリットを比べよう!

前回のシリーズでは、普通方式の遺言が3種類あること、また通常は公正証書遺言の作成がお薦めだとお伝えしました(※詳しくは(【沖縄の相続】暮らしに役立つ弁護士トーク(12))をご覧ください)。今回はなぜ公正証書遺言がお薦めなのか、メリット・デメリットを交えて説明します。
 

自筆証書遺言

 作成者 … 本人
 証人 … 不要
 保管等 … 本人等の保管 紛失・隠匿・改ざんのおそれあり
 費用 … ほとんどかからない
 検認手続 … 必要
 

公正証書遺言

 作成者 … 公証人
 証人 … 2人以上必要
 保管等 … 公証役場で原本保管 紛失・隠匿・改ざんのおそれなし
 費用 … 公証人手数料
 検認手続 … 不要
 

秘密証書遺言

 作成者 … 本人
 証人 … 2人以上必要
 保管等 … 本人等の保管 紛失・隠匿のおそれあり
 費用 … 公証人手数料
 検認手続 … 必要
 

「自筆証書」は手軽で安いけど無効になる場合も

まず、自筆証書遺言(遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自筆で書き、捺印することによって作成する遺言書)を作成しようという方はおそらく、ご自宅で、一人で遺言を作成できるとの理由で選ばれる方が多いのでしょう。

しかし、遺言はせっかく作成しても、法律の要件を充たさないと無効となります。実際、形式的要件を充たさない自筆証書遺言を見かけることも少なくありません。そのような遺言は無効になるだけではなく、内容次第では相続人の感情的な対立につながることもあります。

「公正証書」 費用は掛かるけど安心

他方、公正証書遺言(証人が2人以上の立ち合いのもと、遺言者が遺言の内容を公証人に話すなどして、公証人が作成する遺言書)は、公証人が形式的要件を備えた遺言を作成するので安心です。

安次嶺さんのように遺言の内容を人に知られたくないという方もいると思いますが、公証人には守秘義務がありますし、公正証書遺言の作成に必要な証人2人についても親族や知り合いである必要はありません。弁護士が証人になる場合もありますので、相続人や身近な人に知られずに作成することもできます。もちろん弁護士にも守秘義務があります。

「自筆証書」 紛失・隠匿・改ざんのおそれも!

自筆証書遺言は遺言者の死後、遺言書がどこにあるのか分からなかったり、遺言書が隠されたり、遺言の内容が改ざんされるなどの危険が伴います。

他方、公正証書遺言は遺言書の原本が公証役場に保管されるので、隠匿や改ざんの危険はなく、相続人等は公証役場に公正証書遺言の有無を照会できます。

「検認」の有無も大きい

さらに自筆証書遺言では相続開始後、家庭裁判所が内容などを確認するために調査する「検認」の手続が必要となります。これに対して公正証書遺言は検認も必要ありません。

なお、公正証書遺言を作成する際、公証人の作成手数料がかかります。遺産の額や相続人の数などで変わりますが、数千万円の遺産なら数万円程度であるためメリットが多数あります。公証人の手数料は日本公証人連合会のHPを参考にしてください。

「秘密証書」 費用は掛かるが無効になる場合も

秘密証書遺言(遺言者が遺言書を作成して、署名・捺印し、これを封筒に入れて封印し、これを公証人1人及び証人2人以上の前に提出して、公証人に認証してもらう遺言書)は、自分で作成した遺言書を公証人1人及び証人2人以上の前に提出して、公証人に認証してもらう手続きです。

公正証書遺言と同様の手間がかかる上、公正証書遺言より安いとはいえ手数料もかかります。加えて、公証人が遺言内容を確認することはないので、不備があると無効になる場合があります。公証役場では保管できないので紛失のおそれもあります。相続開始後の検認の手続も必要となります。そのため秘密証書遺言は実務では、あまり利用されていません。

遺言を作成するときは遺留分に要注意!弁護士にご相談を!

ここまで「公正証書遺言をお薦めします」とお伝えしてきたので、「公証役場に相談に行こう」と思われるかもしれません。しかし、公証役場で遺言や相続の相談をすることはできません。

公正証書遺言を作る際にはまず、誰が法定相続人か、どのような相続財産があるかを確認した上で、誰に何を相続させるのかを考えましょう。

遺言を作成するときは「遺留分」といって、一定の相続人(配偶者、子供、父母)に一定の割合の相続財産を最低限保障する制度も考慮しないといけません。この遺留分について配慮しておかないと、せっかく遺言を作成しても、遺言者の死後に相続人等の間で裁判などになることも多いのです。不要な争いを避けるためにも、遺言書を作成するときはまず、弁護士に相談してみてください。

― 執筆者プロフィール ―

弁護士 尾辻克敏(おつじ・かつとし)

中央大学法学部、中央大学大学院法務研究科卒業。司法試験合格後、県内にて1年間の司法修習を経て、弁護士業務を開始。常に相談者の話を丁寧にお聞きし、きめ細やかな法的サービスを的確かつ迅速に提供し、全ての案件に誠心誠意取り組んでいる。

相続問題・交通事故、企業法務等を中心に取り扱う。相続問題では、沖縄の風習や慣習、親族関係にも考慮した適切な解決を心がける。


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(毎月第3水曜日掲載)