ユタキャラでおなじみ! 狂気強めのオールラウンダー<知念だしんいちろうさん>◇沖縄芸人ナビFILE.2


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沖縄のお笑い界を芸人視点で紹介するこの連載。ナビゲーターの「初恋クロマニヨン・松田正(まつだ しょう)」さんに、活躍中の芸人さんを紹介していただきましょう!

こんにちは! ナビ芸人の松田正です。今回は演芸集団FEC所属の「知念だしんいちろう」さんをお迎えしました。ピン芸人として活躍中のしんいちろうさんは、「すぱるたいんづ」というコンビ活動も続け、ユタキャラ「大兼のぞみ」として音楽活動もしています。所属事務所は違う僕ですが「はちノリ」というユニット活動と、「沖縄の風」というポッドキャスト番組でご一緒させていただいています。今日は本音の部分に迫ります!

FEC以前にオリジンに所属

松田ナビ:お笑いを始めたきっかけを聞かせてください。

知念だ:「すぱるたいんづ」の相方、中学校の同級生「よーがりーまさき」との漫才がきっかけ。修学旅行の出し物でした。高校生になってもお笑いを続けましたが、当時はバンドをやっている人たちの立場が上で、バンドのリハーサル中にお笑いをやらせてもらっていたので、声量が鍛えられました(笑)。

松田ナビ:学生時代からもまれる環境にいたんですね(笑)。卒業後はアマチュア活動をしていたんですよね?

知念だ:高校卒業して相方と一緒に、お笑いをやるために東京に行きました。恥ずかしい話ですが、あの頃は沖縄のお笑いを見下していたんですよね。東京生活は楽しくて、お笑い以外すべてが順調。幸せを感じていたけど「あれっ!? このままじゃ住み着いてしまう」と、2年で沖縄に帰ってきました。危なかったなぁ(笑)。

松田ナビ:気付いたんですね(笑)。帰ってきてお笑いライブを始めたと。

知念だ:そう。高校時代の仲間とライブハウスを借りて、お笑いライブを主催しました。FECとオリジンに続く3番目の団体の立ち上げを目指していました。他の芸人たちとフリー同士で、仲良くライブやったりもしていた。

松田ナビ:お笑いというより、まるでバンドマン! またしんいちろうさんは、オリジンにも所属していたと聞きました。 ややこしいですね〜(笑)。

知念だ:高校生の頃、オリジン主催の賞金付きオーディションに出場したんです。終了後にお誘いを受け練習生になりました。「こきざみインディアン」、「キャンxキャンの玉城さん」もいました。相方は部活やりたいと言って入らず、コンビの亀裂が生まれたのはこの時からだなぁ(笑)。僕は通学時のバス代を節約して、オリジンの練習に半年間通いました。バス代を浮かすために、途中歩いたりして。

松田ナビ:安室奈美恵さんがアクターズスクールに徒歩で通ったエピソードと、ちょっと似ていませんか?(笑)

知念だ:奈美恵と一緒。気持ちはね(笑)。

松田ナビ:なるほど、高校生の時にオリジンに在籍していた訳ですね。ではFEC入団の経緯は?

知念だ:部活やるって言ってた相方が、なんとFECの練習生になってた!(笑) ビックリしたけど両方とつながりができて良かったな。主催ライブも赤字が続いて事務所に入った方がいいと思い・・・当時所属芸人が少なかったFECに2人で入りました。

 

柔和に周りを受け止める存在

知念だしんいちろうさん(演芸集団FEC 所属/左)と、ナビ芸人の松田正さん(よしもとエンタテインメント沖縄 所属)

松田ナビ:FEC内での立ち位置はどんな感じですか?

知念だ:適度な距離感。芸人同士が仲良しなの、あまり好きじゃないんです(笑)。今年は設立25周年の節目なので裏側のことをやっています。周年イベントでは「まーちゃん」こと小波津正光が演出を担当し、僕は舞台監督をさせてもらいます。

松田ナビ:オリジン所属の「ノーブレーキ」「リップサービス」と仕事をした時、僕ら「初恋クロマニヨン」と合同でライブをしたいと盛り上がり、FECからも誰か入れようと考えて僕がしんいちろうさんを誘いました。それで8人で「はちノリ」というユニットを組んだんですけど、メンバーも周りも「しんいちろうさんがいて良かった」ってなってます。

知念だ:最初はリップサービスとそんなに仲良くなかったし、ノーブレーキのぶーぶーはとっつきにくくて嫌いなタイプだった(笑)。でも今はみんなめっちゃ仲良しで、大好きになりました。ぶーぶーのことも(笑)。

松田ナビ:「芸人同士で仲良くなるのは・・・」とおっしゃっていましたが、自分と感覚が近い人たちとライブをするのは心地いいですよね。9月30日の「はちノリ」はいいライブになりますよ! でも僕らがやんちゃな発言をしても、しんいちろうさんだけは柔和なイメージ。自分の見せ方に気を付けていますか?

知念だ:引き方や隠れ方が、多分上手なんでしょうね。生意気でも先輩に怒られなかったし、みんながダメな発言をしている時俺はすっと引くんじゃないかなぁ(笑)。こだわりが強い人ほど言いたいことを言うけど、引いたり冷めたりできるのはそんなにこだわりがないのかも。

松田ナビ:周りを受け止めて優しさで包み込むタイプ。ラジオパーソナリティーやってCD出して映画監督もやり、MCもできる。オールラウンダーですごいなぁと思いますが、仕事に対してどう向き合っていますか?

知念だ:こだわりはないけど好奇心は旺盛なので、話をいただいたら基本的には断らない。沖縄という小さな島で活動しているので、受けるメリットが大きいと思うんです。どんな仕事でも1回はやってみる。その分失敗もしていますし、舞台に立つのが怖い時期があったり、本当にやりたい事は何だろうって迷ったりしてますけどね。

松田ナビ:断らない姿勢と能力の高さでどんどん話がくるんですね。つらい時期を乗り越えた方法は?

知念だ:自分への変な期待はやめた。2011年にコンビ休業して楽にもなった。相方の良さに気付いて考え方が変わった。実はピン芸人としての支えになったのは「初恋クロマニヨン」。僕のピンネタを見て「めっちゃ面白かったです!」って言ってくれたんですよ。3人の評価が自信になり、1人で活動できるようになりました。感謝しています。

松田ナビ:全然覚えてない(笑)。コンビ休業はかなりのダメージですが、乗り越えて自信がついたんですね。どん底にいても辞めようとは思わなかったですか?

知念だ:一回も思わなかったんだけど、昨日ちょっと辞めたくなった。舞台でダンスするのが決まったんだけど全然できなくて本気でイヤ!(笑)

お笑いコンプレックスが原動力

松田ナビ:企画を考え台本を書いたりもしていますが、どういうモチベーションで向き合っていますか?

知念だ:もともとお話を考えるのが好き。それが仕事になり、自分の書いた話を面白い人たちが演じてくれるのは楽しい。最近は「捨て犬・捨て猫をゼロにする」というプロジェクトで脚本を書いていて、社会とのつながりを持てる事もうれしく思っています。

松田ナビ:親が喜ぶことをしたい思いもありますよね(笑)。沖縄でお笑いを続けることを、どう感じていますか?

知念だ:沖縄で純粋にお笑いだけで生きていくことは難しい。沖縄芸人のみなさんはいろんなことをやりながら、どうにか食っていってる状況だと思うんです。沖縄のお客さんも難しいと思う。

松田ナビ:沖縄のお客さんは沖縄ネタが大好きだから、どこまでそれをやるのか・・・そのせめぎ合いは難しく、バランスを考えますよね。

知念だ:ウチカビで笑わんでほしいっていう気持ちもありながら振り回してる(笑)。沖縄芸人ってそういう生き方じゃないかな。だから県民が潜在的に持っているどろっとした気持ちを、お笑いで発散したい。「観光客にレンタカーを貸さないレンタカー会社」が最新ネタです(笑)。

松田ナビ:ブレークした「大兼のぞみ」というユタキャラは、その流れから来ましたね。イメージするユタなのか違うのか、感じ方がいろいろあったでしょうね。

知念だ:ユタって嫌だなって思う人もいて、俺は母親がユタだから学生のころは周りに言えなかった。ネタとして浄化させ笑ったら楽しいかな〜っていう感覚です。沖縄はネタの宝庫ですよ。

【動画あり】清明のBGMはこれで決まり!
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-478721.html

松田ナビ:そうですね! シンプルな沖縄ネタもありますけど、しんいちろうさんみたいにブラックなユーモアも交えて笑える範囲でリアルさを突くパターンもある。狂気強めでも柔和なキャラがあるから受け入れられるってのが、勝手な分析です。

知念だ:だからちょっとSF(笑)。沖縄のお笑いってなんだろうって考えた時、無視できないのがウチナー芝居。演技はもちろん楽器もコメディーも同時に行う。そこから学んでいかないと沖縄のお笑いでなくなってしまう、という危機感は持っています。

松田ナビ:僕も仲田幸子さんを心から尊敬していますし、しんいちろうさんが沖縄芝居の方たちをお手本にしている姿が、つながってきました。影響を受けた人はいますか?

知念だ:一番は笑築過激団かな。「ゆうりきや〜」さんに可愛がっていただいて、若い時に玉城満さんの大ヒット舞台「ルーツ」に代役で出演させてもらいました。沖縄のお笑い界を作り上げてきたプロフェッショナル感が、とにかく衝撃的。また全員後輩だけど、面白くてお笑いに真剣に向き合う「はちノリ」メンバーも尊敬してますよ。

松田ナビ:僕もしんいちろうさんのこと、尊敬できる友達だと思っています(笑)。ポッドキャスト番組「沖縄の風」に誘っていただいた事も、ありがたかったです。

知念だ:時々友達感覚になる時あるけど、俺は先輩!(笑) 「沖縄の風」は、このままだと自分も沖縄のお笑いも縮小していく、多くの人に広めなきゃという危機を感じて始めました。面白くて言葉の感覚が通じる松田正を誘い、テレビディレクターの神谷祐一郎さんにお声かけして3人のトークを毎週配信しています。

松田ナビ:最後に、お笑いをやる上での原動力を教えてください。

知念だ:お笑いコンプレックス。昔も今も変わりません。自分を面白いと思えたことがなくて、面白い人にあこがれている。面白い人の隣にいるためには・・・と考えると、自分が面白くなければいけないって行き着く訳です。

松田ナビ:最近の風潮として、アスリートのように勝敗を気にする芸人も増えています。僕も恥ずかしながらそんな自分でありたいと思うことも(笑)。しんいちろうさんのニュートラルさを見習おうって思いました!

知念だ:でもアスリートの姿勢でお笑いやってるぜ、っていう振り幅こそ一番のお笑いじゃない!? 俺たちはたかがお笑いってすごく下に置き、だけどものすごいことをやっている! その間を行ったり来たりするのが、お笑いだなって俺は思うけどね。

松田ナビ:なるほど。身につまされました。今の沖縄のお笑い界はいろんな動きがあり、夜明け前のような空気を感じますが、しんいちろうさんのスタンスは素晴らしいと感じた対談でした。

【対談を終えて・・・】

☆知念だしんいちろう さん☆

インタビュアー・松田正さんがどんな姿勢で来るのかなって、いろいろイメージしてました。だけど結局はいつもの正くん(笑)。そういう意味でしゃべりやすくてとっても楽しかったです。

 

☆松田ナビ☆

「トップの人と一緒にやりたい」という思いが印象的で、そういうしんいちろうさんだからこそ、いいパフォーマンスができるんだと納得しました。ニュートラルなところを見習いたいです。

【プロフィール】

知念だしんいちろう(ちねんだ しんいちろう)

性別:男性

生年月日:1981年4月7日

身長/体重:170cm /55kg

出身地:宮古島

趣味:お笑い/料理/野球/サッカー/呑み歩き

Twitter:@chinendookinawa

松田 正(まつだ しょう)

性別:男性

生年月日:1984年8月22日

身長/体重:178cm /70kg

出身地:沖縄県読谷村 

趣味:ソフトボール/野球/ボーリング

Twitter:@hatsukoimatsuda

【インフォメーション】

はちノリ vol.4~どれみチャレンジ~

事務所を越えた4組、初恋クロマニヨン・知念だしんいちろう・ノーブレーキ・リップサービスが合同ライブを開催します!

10月21日(日) 開場:18時30分/開演:19時

(※台風接近のため、9月30日(日)から延期になりました)

会場:てんぶす那覇テンブスホール(那覇市牧志3-2-10)

料金:前売り・当日ともに一般 2000円  小中高生1000円 未就学児無料 

問い合わせ: 098-866-6118〔オリジン・コーポレーション〕

 


 

◆沖縄の風
毎週木曜日配信中! 沖縄在住の芸人とTVディレクターによる雑談番組です。
http://okinawa-kaze.seesaa.net

執筆:饒波貴子(フリーライター)
協力:中国茶カフェ「流求茶館」 http://ryukyu-chakan.com

饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。