バイオレンスシーンに注目! 映画『10ROOMS』加藤雅也さんにインタビュー


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県内で好評上映中の『10ROOMS』(テンルームス)は沖縄発のエンタメムービー。コメディーからバイオレンスまで複数ジャンルの物語と個性的な人物たちが、4本のエピソードを紡ぎます。その舞台は沖縄市(旧コザ市)パークアベニュー周辺で、実在する「トリップショットホテルズ・コザ」の客室で繰り広げられる人間模様を中心に描出。県内で活躍する俳優・芸人が多数出演している中、ひと際存在感を放つのが日本を代表する俳優・加藤雅也さんです。このホテル、一棟建てではなく通り沿いに点在、部屋はキャバレーや美容室などを改装したなどコザらしい特徴がたっぷりで、その環境にインスパイアされた加藤さんのアイデアが本作制作のきっかけになったとか!? 制作秘話や熱い思いを加藤さんに聞きました。

聞き手:饒波貴子(フリーライター)

舞台は実在のホテル、コザは素晴らしいロケ地

―『10ROOMS』完成の思いから、まずは教えてください。

「これは沖縄の映画です」というプライドを持ちながら、沖縄のみなさんに応援していただきたい作品です。それがかなうと日本全国でヒットする可能性がある、と思っています。地元の人がそっぽを向いている沖縄映画は売れない、と思うんですよ。日本人が「日本映画はダメだ」などとプライドを持たない時期が以前あり、当時は国際的に認められませんでした。それと同じようになってしまうと思えますから、本作含め沖縄で作った映画は、自分たちの作品という気持ちで応援いただきたいです。

―共演者にはどんな印象を持ちましたか?

自然に演じるポテンシャルがとても高いと思いました。エピソード1の主役・ひがりゅうたさんは、ものすごくナチュラルです。能力があるのはもちろん、東京の役者と比べると奇をてらったことはやらないんでしょうね。沖縄の人間じゃない僕のようなヤツが沖縄風のアクセントでせりふを言うのとは違い、地元の人は普段と同じでいい。カメラを前に自然体でいてほしいし、地方にはいろいろな才能が埋もれていると思っています。

僕が地方に行って映画作りに参加するのは、手伝いのため。広島で参加した時には、「広島カープに助っ人外国人が入ってきたのと同じ」と言われました。自分の役目を果たしたと思えたら、みなさんの映画を作ってくださいと伝え、また何かあった時に呼んでくれたらという気持ちでいます。

最近の東京ではあまり見ない光景ですが、昔は映画やドラマのロケを朝から夜までずっと見学する子がいて、俳優に憧れその夢をかなえたという話が時々ありました。地方ロケではそういう場面が今もあるので、子どもたちに向けた教育的な発想での映画作りの良さになっているかもしれませんね。最近は外国映画が簡単に視聴でき、日本の俳優に憧れる子どもは少なくなってきていますから。

―闇社会や犯罪者を軸に描くジャンルを「ノアール」といいますが、「琉球ノアール作品をつくりたい」という岸本司監督の思いに共感している加藤さん。本作がその一歩になりました。

怖い街だとイメージさせる映画は止めてほしい、と思う沖縄の人はいるはずです。ですが僕は、島の親子を描くようなありきたりの話でまとめた観光映画は誰が見るのだろう!? と疑問に感じてしまうんですよ。映画として発信力を持つのは、バイオレンスやエロティックなジャンルだと思っています。そして映画が面白かったら、ロケ地を訪ねたい人も多くいるはずです。

(C)Fanfare Japan

―本作のエピソード4は、加藤さんと尚玄さん演じる相棒刑事の話。善人なのか悪人かと考えさせられ、2人の悲しい運命を追うラストシーンは見応えがありました。

ノワールっぽい作品がやっとできたかなと思っています。信頼関係・友情・保身など演じる上での自分の解釈はありますが、みなさんがどう解釈したのかも気になっています。他のエピソード含め、全体をバイオレンス映画にしても良いんじゃないかと僕は思いました。拳銃が出てくるシーンを描くだけではなく、黒人や白人がウロウロしている風景や昔からの住民の思いなど、この街は何かが起こりそうだと感じさせるコザが持つ独特の雰囲気。高いポテンシャル、そしてアジアのルートで動きが取れるなどの位置。面白いサスペンスが作れそう、沖縄ならではの作品ができそうだとイメージします。

―本作の舞台になった、パークアベニューにある実在の「トリップショットホテルズ・コザ」も雰囲気がありすてきですね。

あの周辺は面白い! 本土からももっと多くの人がコザに行くといいけれど、交通の便がイマイチなのが少し問題かもしれない。映画を撮るにはすごくいい場所ですね。舞台にしたホテルはプロデューサーの会社が運営しています。「一部屋ごとにエピソードを撮って、全体をまとめるオムニバス映画にするのはどう!?」とアイデアを出しました。ホテルという場所は現実にさまざま出来事が起こっているでしょう。外で撮らなくても部屋の中だけでいいし、スタジオを借りるより費用も安い。撮影場所として十分な環境です。映画を通して、パークアベニューにこのホテルがあることがアピールできています。ホテルの部屋で何かが起こっているのが好きなので、路面のオープニングシーンは不思議な感覚で見ました(笑)。

県民がプライドを持つ沖縄映画を

―映画制作という視点では、東京から沖縄に来て違いを感じることはありますか?

違うと思うことは何もありません。そして沖縄には素晴らしい景色がある。美術費にあまりお金をかけなくても、良い作品ができると思っています。故郷奈良の歴史1400年のお寺で腕のあるカメラマンが撮影したら、素晴らしい映像になりました。セットは所詮人が作るものですが、実際にあるものを上手く撮るだけで絵になります。コザや沖縄県全体には良いものや面白いものがいろいろとありますし、作り物ではない本物の美しい景色があります。東京でお金をかけてセットを作るより、旅費をかけて沖縄に行く方が良いロケーションで撮れる場合もあるでしょうね。僕が出演して東京で撮ったドラマも、ストーリーそのままで場所を沖縄に変えて撮ると違うものに見えるはず。沖縄という土地は本当に魅力的ですね。

―沖縄で撮る映画はさらに工夫をこらし、沖縄県民は県産映画をもっと大切にした方が良さそうですね。

これからですよ! 大ヒット映画はスグには出ないでしょうが、話題になる映画があれば「これは沖縄映画だよ」とプライドを持つ人が増えると思います。そのため大切なのは、作品を作り続けることですね。

(C)Fanfare Japan

―実際のトリップショットホテルズ・コザは10部屋あり、映画タイトルは『10ROOMS』。4つのエピソードが今回できましたが、残り6話はこれからということですね!?

「続けて作る」とプロデューサーは言っています。ホテルの宣伝費にお金をかける代わりに、映画を作った方がいいという考えです。観客のみなさんには、映画の舞台になったパークアベニュー周辺を楽しんでいただきたい。映画が大ヒットしなくても、ホテルを知ってもらい満室になったりしたら効果は十分。作った映画をどう使って何を得るか、という発想や価値付けは重要なことです。

―沖縄を代表する映画監督、岸本司監督の作品への出演は本作で4本目。役者としてどういう関わり方をしていますか?

新作を撮る時には声を掛けてくれ、と伝えています。「こんな役は加藤さんには・・・」と岸本くんは尻込みしがちだけれど、僕を使いたい思いがあるならまずは話してほしいんですよ。「できない」とジャッジメントする場合はもちろんあります。でも納得した上でのオファーは一体いつできるのかということになりますし、岸本くんの考えを分かった上でリスペクトしています。引き受けるかどうかは他の作品との兼ね合いやタイミングもある中、最初に話がきたのが『ボーダレスアイランド』でした。ちょっとしたエピソードだと言われましたが、「それは構わないし、ぜひやろう」と言ってスタートしたんです。続いてオムニバス作品の『ココロ、オドル』と『ウタモノガタリ-CINEMA FIGHTERS project-・幻光の果て』の1エピソードのオファーがそれぞれ来て、引き受けました。今回の『10ROOMS』も同じような流れです。4本やった既成事実は残りますし、主演できる作品にこだわっていたら、いまだに何もできていなかった。「加藤さん、カッコよく撮ります」と本気で思ってくれたらそれでいいし、声を掛けてくれたことに感謝します。僕の存在が頭にあってこその声掛けですからね。いいように使われる時も分かるので、引き受けない場合もあるんです。

―まずは声を掛けてくれ、というのが加藤さんのスタイルなんですね。

声を掛けられ台本を読んだら、何を求めているのかある程度は分かります。これは僕にしかやれない、やってほしい役なんだと感じられたら監督の気持ちが伝わってきます。僕がやる意味があるのか、疑問に思ったら「できません」と答えますよ。

地方と関わる映画制作をライフワークに

―映画出演を通して沖縄と関わっている加藤さん。今感じている沖縄への思いとは!?

2022年は復帰50周年だったので、その節目に写真を残す意義を感じ去年の3月にコザで撮りました。アパレルブランドのカタログ写真になっています。去年撮ろうが来年撮ろうがコザの街は大きく変わらないんだろうけど、復帰50年の年に来たことに意味があると思っていて、100年経つと50年前の写真として価値が出てきますからね。写真をスライドショーにして、フォトシネマも作りました。

去年はテレビで復帰関連の番組があまりなかったので、気になりました。どうしてだろう!? NHKでは特集と朝ドラ『ちむどんどん』を放送していましたが、他では見ませんでした。雑誌で取り上げられているのもあまり見なかったし、沖縄の歴史を知るためにももっと紹介してほしかったですね。若い子に戦争があった事実、沖縄がアメリカ統治下だった時代を知ってもらうひとつの機会になったかもしれません。

―沖縄がアメリカだったころを覚えていますか?

叔父の新婚旅行は沖縄で、パスポート持参で行きました。南沙織さんは今の所属事務所の先輩ですが、パスポートを持って上京したんですよね。やっぱり沖縄はアメリカだった、というのが子どものころのイメージです。

―今後も岸本監督の作品に出演し、沖縄との縁を続けていただきたいです。沖縄の好きな場所、好きな食べ物はありますか?

沖縄は東京はじめ他の地域とは空気が違うし、コザの匂いが好き。岸本くんが言っていたけれど沖縄ならではの湿度からのものでしょうね。カメラには湿度も映し出されるので、アクションやハードボイルド系の作品に向いていると思うし、理由なく心引かれます。

沖縄料理ではないけれど、「トリップショットホテルズ・コザ」のフロント兼ラウンジ「プレイヤーズカフェ」の料理はおいしいですよ。沖縄らしい食べ物でいうと、島ラッキョウと海ぶどうが好きです。その土地で地元のものを食べるのが、一番おいしいんじゃないですか。

―映画、ドラマを中心にさまざまな活動で輝き続ける加藤さん。最後に展望を聞かせてください。

街に住んでいる映画監督との映画制作プロジェクトを、自分のライフワークにしています。沖縄では岸本くんとやっていて、広島で撮影した『愚か者のブルース』は昨年11月に公開しました。今後も続けていくので、今は九州を計画中。そのあと関西や名古屋、北陸、そして北海道へと広げていきます。

―地域の映画に加藤雅也が出演しているなんて! と驚きますが、加藤さんご自身が働きかけているのですか?

そうです。いろんな地域で映画を作る面白さが絶対にあるんです。沖縄の人たちと映画をやりたいと思っていたころ、岸本くんとの出会いがあり実現しました。一年に一本は地方の映画作りに関わりたいので、その分東京で頑張らないといけません。アイツが出ても意味ないじゃん、と思われるようならダメですからね。東京での仕事を続けながら他県に行き、いろんなところでいろんな人と化学反応を起こしていけたらと考えているんですよ。東京にも地方にもそこにしかない景色があり、そこでしかできない楽しさがありますから。

映画『10ROOMS』予告動画

映画『10ROOMS』

2022年/日本
監督・脚本:岸本司
出演:尚玄、ひがりゅうた、宮城夏鈴、中村映里子、加藤雅也ほか
制作・著作 ファンファーレ・ジャパン
https://10rooms-movie.com
 

「ハイサイ気分」

ようこそ沖縄へ! 本土から来沖する有名人を歓迎する、連載インタビュー。近況や楽しいエピソード、沖縄への思いなどを語っていただきます。

 

饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。