沖縄のインディーズシーンを発信し続ける 映像制作チーム「Kampsite OKINAWA(キャンプサイト・オキナワ)」のこだわりと野望


沖縄のインディーズシーンを発信し続ける 映像制作チーム「Kampsite OKINAWA(キャンプサイト・オキナワ)」のこだわりと野望
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

「映像を通じてインディーズアーティストたちとゼロから一緒にやる」

 2016年春、沖縄に映像制作チーム「Kampsite OKINAWA(キャンプサイト・オキナワ)」が立ち上がった。活動開始と同時に県内バンドのライブ映像やミュージックビデオなど、躍動感あふれるハイクオリティな映像を次々と手掛けて発信し、県内のバンドマンやファン、“キッズたち”の心を捉えている。沖縄の音楽シーンやアーティストを発信し続けるために、時には採算度外視で撮影に挑むことも。そんな彼らの熱意とセンスに信頼を寄せる関係者も増えている。

 全ての作業を手掛ける松井涼さん(30)と、與那覇浩平(こへぴっぴ)さん(25)に、立ち上げの経緯や今後の展望について話を聞いた。

映像マン松井と琉大院生こへぴっぴ

野添

野添

―さっそくですが、自己紹介をお願いします。

松井

松井

「Kampsite OKINAWAの松井涼と申します。1987年生まれで、滋賀県で生まれ育ちました。
21歳の時に映像の勉強のために上京して、そこからずっと映像に携わっています。沖縄には2年前に移住してきました」

与那覇さん

こへぴ

「同じくKampsite OKINAWAの與那覇浩平と申します。皆にはこへぴっぴって呼ばれています。
1992年に那覇市曙で生まれ育ちました。現在は県内の大学院でゾンビの研究をしながら、映像制作をしています。
個人でも撮影しているのですが、チームで映像を撮るときにはKampsite OKINAWAに参加しています。メインの活動は映像制作になるのですが、イベントを企画したり、ライブやトークライブへも出演したりしています」

野添

野添

―ライブ映像を撮り始めたきっかけを教えてください。

松井

松井

「僕が以前入社したゴイスという映像制作会社で、ライブ映像を担当したのがきっかけです。
入社時期がちょうどUstreamっていうネットでの生映像配信が流行っていた時で、それを使う部署の担当になったことで、毎日のように都内のライブハウスに通って、インディーズのバンドのライブ映像を撮り続ける仕事をしていました」

「普通カメラマンって、相当キャリアを積んで何年もかけて勉強して、ようやく担当することができるんですけど、僕は新人でしたが運よくすぐに担当することができました(笑)。その会社はその後、解散することになったんですが、残った社員で新しくKampsiteという映像配信会社を立ち上げて、今に至ります」

与那覇さん

こへぴ

「僕は2013年ごろ、県内インディーズバンドのライブに遊びに行くようになってからです。
カメラ自体はずっと趣味でやっていたのですが、ちゃんとした形で映像を撮って発信し始めたのはその頃からになります。
県出身のJACK THE NICHOLSON’S※1っていうバンドのファンで、勝手に撮っていたのがきっかけですね」

沖縄移住で〝支社〟立ち上げ

野添

野添

―昨年から動き出した、Kampsite OKINAWAを立ち上げるきっかけを教えてください

松井

松井

「Kampsiteの沖縄支社という形になります。社長が『社員はどんどん海外や県外に進出していけ!』っていう考えを持つ人でして…。沖縄出身の彼女との結婚を機に沖縄への移住を考えていたので、支部をつくる話を提案して実現しました」

「立ち上げたばかりの頃は、沖縄に繋がりもなくて何もできずにいました。東京から送られてくる仕事もあったので、生活に困らない程度の稼ぎはあったんですけど、『これじゃあ東京にいる時と何も変わらない!』と思って、繋がりをつくろうと思って動き出しました。その流れでこへぴっぴとも知り合って、一緒にメンバーとしてやってもらっています。僕の奥さんもメンバーとして参加しているのですが、彼女ともライブ映像を撮りにいったりしますね」

「Kampsite OKINAWAと言いつつ、僕がほぼ個人事業主みたいになっていまして…(笑)。Kampsite OKINAWAは沖縄のインディーズバンドを発信するためのツールとして使っていて、日々の稼ぎは、県内での映画やドラマ、CMの撮影をしてフリーランスとして動いています」

「撮らせてほしい」 情熱が生み出した出会い

野添

野添

―沖縄で出会って意気投合した2人ですが、Kampsite OKINAWAの最初の活動って、どのバンドの撮影だったんですか?

与那覇さん

こへぴ

「Kampsite OKINAWAとして最初に発信したのは、昨年行われたDIYフェス『ODDLAND2』のトレーラー映像とライブ映像ですね。
ODDLANDの1カ月前にライブハウスOutputの上江洲店長から松井さんを紹介していただいて、『じゃあ来月こんなフェスがあるから、一緒に撮りましょうよ!』って言って、そのまま僕がKampsite OKINAWAに合流した形になります」

松井

松井

「あの時は、ちょうど沖縄に来て4カ月とかじゃないかなー。ODDLANDは沖縄に来たばかりで何も分からない僕でも、沖縄のバンドシーンをざっくり知ることができるイベントだったので、本当に良い経験でした。
東京に住んでいた時は、ライブハウスに行ってバンドを撮るのが生活の一部になっていたんですけど、沖縄に来てからそれができていなくて、ルーティーンが崩れて不安に陥ってしまっていたんです(笑)。
そこから、Outputの上江洲店長さんに連絡して『お金はいりませんので、どうか映像を撮らせてもらえませんか』って直談判していました(笑)」

沖縄は“高円寺”のよう

野添

野添

―県外と比べて、沖縄の音楽シーンって映像を撮る側から見てどう映りますか?

松井

松井

「東京でいうと、高円寺の音楽シーンに似ているなっていう印象を受けました。音楽単体だけじゃなくて、ファッションも含めて音楽を表現している人が多いイメージを受けました。若いバンドは、『ヤングオオハラ』とか『奢る舞けん茜』とか勢いがあるバンドが多いですよね。

野添

野添

―ヤングオオハラのミュージックビデオ(以下MV)を撮影されていましたよね。

松井

松井

「おかげさまで! 彼らは東京に行っても人気が出ると思いました。県内でも突出しているバンドだと思います」

野添

野添

―逆にずっと沖縄に住んでいるこへぴさんは、映像を撮る側として、印象に残っているバンドはいますか?

与那覇さん

こへぴ

「もう解散してしまったんですけど、JACK THE NICHOLSON’Sの印象は強く残っていますね。ファンとしてずっとライブを見続け、僕が映像を撮るきっかけになったバンドだし、沖縄の音楽を深く聴くきっかけにもなったバンドなので。松井さんにも是非見せたかったなー。今活動しているバンドなら、offseason※2とBUMBA※3が撮っていて面白いですね。」

“プロのテクニック”と〝ファン目線〟の融合

野添

野添

―2人がライブ映像を撮る時に心掛けていることってありますか?

松井

松井

「僕的には、実際に見るよりも『盛って撮りたい』っていう気持ちがあって、『いい顔』を逃さないことに気をつけながら撮っています。自分で拍を数えて、ギターから顔へカメラワークを移していくと、音とハマって合致していい感じに撮れます。
そうやってライブ映像ならではの見せ方で、盛って撮ることを心がけています」

与那覇さん

こへぴ

「逆に僕はアマチュア上がりで、仕事というよりずっと自分が好きなバンドしか撮っていなかったので…(笑)。どっちかというと、ライブっぽさを撮りたいです。演者、フロア、ライブハウスの雰囲気も含めて、その空間で起こっている事件的な出来事をそのまま撮るということを心がけています」

「カメラマン目線というよりも、お客さんの目線で『このライブ、ここが面白い!』っていう点を見つけ出して、そこに注目して撮るとか。
バンドよりも、フロアで面白いことが起こっていたらそっちにカメラ向けることもあります。バンドでも『カッコいい人』に注目して撮ってしまいます。松井さんはプロだから、全体をカッコよく撮るんですけど、僕はボーカルよりもベースがカッコよかったら、そっちを撮っちゃったりします。
僕が影響を受けてきた映像は、海外で撮られたバンドのファンムービーが始まりなので、僕としてもファン目線で、そのバンドのカッコいいところ、伝えたいところを中心に撮ってしまいますね」

松井

松井

「2人で撮る時は補い合えるので、より良いものが撮れていると思います」

野添

野添

―MV撮影の時には、どんな流れで撮っているんですか?

松井

松井

「MVの場合は、バンドと事前に打ち合わせをしてから始めます。どういう風に撮りたいかっていうのを提案していくんですけど、予算や機材の関係で実現できないことも多いので、できるところをお互いすり合わせながら、撮影当日を迎えます」

与那覇さん

こへぴ

「お互いに『良い妥協点を探す』ってことに近いのかもしれません。スタッフの数や日程やお金などの問題から、バンド側のやりたいことを全て叶えてあげることはできないのですが、その中でより良いものを作れるように合わせていくっていう感じですね」

良質な音でセッション動画を撮れる環境を

野添

野添

―今後Kampsite OKINAWAとしてやっていきたいことなどはありますか?

松井

松井

「今後について不安なことが1つあって…。バンド映像関連の仕事を取ってきてくれているのが、こへぴっぴ君なんです。
彼もそろそろ大学院を卒業して就職すると思うんですけど、もし内地に行ってしまったら恐らく仕事がこなくなります(笑)。だから、僕個人でも続けていけるように、どうにかしないとなぁと思っています。続けていくことが大事なので」

与那覇さん

こへぴ

「僕自身、進路は今後どうなるか分からないですけど、どちらにしてもメンバーを増やしたいですね。僕ら自身ももっと多くのバンドとダイレクトに繋がる必要があると思います」

「あとは、ずっと前から『品質の良いスタジオセッション動画』を撮りたいっていう願望があって。海外で流行っているAudiotree.tvのような。自分たちでスタジオや場所を用意して、良い品質の音でセッションの動画を撮るっていうものです。
この分野ってまだ日本では穴場だと思っていて、他がやらないうちに早く手を付けたいって思っています。これはライブ映像みたいに、ライブイベントの有無に左右されないし、自分たちのチャンネルを持ってしまえばコンスタントにいつでもどこでも発信できると思うので。音響と場所を整えたら、もう実行できる段階にはあるので、その環境を早くつくりたいです。」

「あと、ひたすら撮り続けていくことも大事だけど、しっかりとKampsite OKINAWAとしてのブランディングも整えてやっていくことも目標としています。沖縄で僕らが何をしていけるかっていうことを考えて発信していけば、県外からも見てもらえるようになると思います。
去年から多くのバンドを撮らせてもらっていますけど、その全てをこのチームで撮っているって、まだそこまで認知されていないと感じています。なので「Kampsite OKINAWA」っていうチームの認知度を高めていくことが、まず今年の目標です」

「沖縄のインディーズを有名にしたい」

松井

松井

「モンパチとかBEGINとか、全国的に誰もが知っている沖縄出身のアーティストがここ10年くらい出てきていないと感じています。その状況の中、僕らが発信しているアーティストが世の中に出てくれたら、そんな嬉しいことはないと思っています」

「音楽の映像を撮るのって、どんなに安くても50万円くらいかかっちゃうんですよ。そんなお金って、地元で頑張っているインディーズバンドにとってはリアリティがないじゃないですか。だから、どっかからデビューでもしないと撮れないし頼めないと思うんです。
そんな中、僕らは『たとえ相手にお金がなくても引き受ける』って決めて活動しています」

「撮影で一番お金が掛かるものって機材と人件費。Kampsite OKINAWAでの活動で、自分の人件費は発生しなくてもバンドの映像を撮り続けていきたいと思っています。
撮って発信していくということが自分のモチベーションに繋がっているから。Kampsite OKINAWAの目標は『自分たちが撮ったアーティストが、むちゃくちゃ売れる』っていうことなので(笑)」

7月24日の“企み”に注目!

野添

野添

―今後の活動予定について教えてください。

松井

松井

「7月24日にうちのこへぴっぴが、フランスからSportっていうバンドを呼んで企画したイベントの『Sport ジャパンツアーインオキナワ』でのライブ撮影が決まっています。
このイベントでの撮影に関しては、僕なりにある企みがありまして…。僕らに興味を持ってくれている県内のいろんなカメラマンの人に声をかけて、みんなでそれぞれに撮る予定です。
ライブ映像ってカメラが何台もあった方がアングルも増えていいんですよ」

「だから、経験がなくても多くのカメラを回してもらうことに意味があって、編集でいろんな人のアングルを使って映像を作れたらなと思っています。
この記事を読んでKampsite OKINAWAに興味を持ってくれた方はご連絡ください。メンバー大募集しています!」

Kampsite Okinawa HP

https://matsuiryo613.wixsite.com/kampsiteokinawa

Kampsite Okinawa Youtubeチャンネル

https://www.youtube.com/channel/UC0UnES1n-twISehJ6uOuBnA

松井涼 twitterアカウント

https://twitter.com/Matsui_Ryo

こへぴっぴ twitterアカウント

https://twitter.com/polco2

 

※1 JACK THE NICHOLSON’S…金城小町を中心に、2011年各々別活動でバンドをしていた友人を誘い結成。ラスティック、トラディッショナルミュージック、ブルースを基盤にガレージかつフォーキーなサウンドを目標に掲げるも、ライブの度に酔っ払っては音程もリズムもグダグダになってしまうポンコツ楽団。2016年解散。

※2 offseason…清涼感と多幸感溢れるサウンドが魅力のエモ/パンクバンド。

※3 BUMBA…沖縄発“メロディックうぉううぉうバンド”。2016年11月Eggsレーベルより1st miniアルバム「FRONTIA」を全国タワーレコードから発売。

聞き手・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)

 音楽と湯の町別府と川崎フロンターレを愛する92年生。18歳からロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作っている人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。沖縄市比屋根出身。