沖縄のバンドが高校の軽音楽部に出前授業!? ミュージックタウン音市場×P-famが挑む音楽人材育成プロジェクト


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MONGOL 800、ORANGE RANGE…。沖縄の名だたるミュージシャンを輩出してきたイベント「沖縄音楽市2018」が5月26日、沖縄市のミュージックタウン音市場で開かれます。若手ミュージシャンの登竜門的存在の同イベントはことしで18回目。今回も県内外から注目を集めるインディーズバンドのP-famひぇあふぉうなど、全6組のアーティストが出演します。

さらに今年は、県内No.1高校生ミュージシャンを決める「バンドインターハイ」も連動して開かれます。会場はミュージックタウン音市場1階の音楽広場。沖縄県内全15組の中から予選を勝ち抜いた6組がグランプリをかけて、“初期衝動”に満ちたアツいパフォーマンスを繰り広げます。来場者による投票でグランプリに輝いたバンドはその日、沖縄音楽市のステージにも立つことができるのです!

軽音楽部の高校生が輝ける場を!

バンドインターハイを手がける石川さん。普段はミュージックタウン音市場で企画を手掛ける。

「野球部とかバスケ部のようなメジャーな部活と違って、軽音楽部って正式な大会がないんです。でも、子どもたちは一生懸命音楽に打ち込んでいる。彼らの3年間の活動成果を形にする機会がないこの状況をどうにかできないかと思って、去年バンドインターハイを立ち上げたんです」と話すのは、ミュージックタウン音市場の石川一機さん。バンドインターハイの発起人の一人です。

学校訪問プロジェクトをスタート

とはいえ、石川さんは多くの高校生たちと触れ合っていく中で、各学校によって技術力に差があるように感じたそうです。

「顧問の先生に音楽経験がある学校の生徒たちはしっかりと教えられていて技術力も高いのですが、ほとんどの学校は生徒まかせにしているところが多い印象を受けました。そこで私たちが高校生たちに基礎的な技術力はもちろん、ライブパフォーマンスや機材の扱い方など音楽活動にまつわることを教える機会を作ることができないかと思ったんです」

そこで今年から始まったのが、学校訪問プロジェクト! ワンマイライブを大成功させたP-famと一緒に、各高校の軽音楽部を訪問して、高校生たちに音楽のイロハを教えていくプロジェクトです。

P-famのメンバーである、しょーやおぢさんは、「今年の沖縄音楽市のテーマは『沖縄音楽シーンの底上げ』。高校生ミュージシャンが抱える悩みや技術的向上などを一緒に問題を解決していけたら、底上げにつながると思って、喜んで協力させてもらっています。若い世代に勢いがつけば、今後の沖縄の音楽シーンも面白いものになっていくと思います」と学校訪問を引き受けた経緯を話してくれました。

バンドマンが高校生に“伝授”

この日は、沖縄市にある県立コザ高等学校を訪れました。4校目の訪問です。参加するP-famメンバーは、ともくん、しょーやおぢさん、レン様の3人。

バンドインターハイ予選を勝ち抜き、本選に出場する「しいたけ±K」の皆さんが所属する軽音楽部におじゃましました!

部室に招かれたP-famメンバー。

まず最初にしいたけ±Kのライブパフォーマンスを見せてもらい、バンドの長所と短所を挙げながら、それぞれの課題を整理。26日のバンドインターハイ本選にどう挑むか目標を立てることになりました。

ボーカル担当のきらりさんの発案で、「当日はお客さんと一体感のあるライブを作りたい!」という目標に決まり、各パートに分かれてP-famメンバーからの個別レッスンへと移りました。

まずはボーカルチーム。

P-famボーカルのともくんと、きらりさんのマンツーマンクラスとなりました。

なんときらりさんは、バンドインターハイ予選が人生初ライブだったとのこと!「大学に進学した後も、ずっと音楽をやっていきたい」と語る彼女に対し、「当日のライブの雰囲気をイメージして、自分が一体感を作っている姿を想像していくんだよ」と、ボーカルとしての心構えを細かい部分までアドバイスしていました。

続いては、しょーやおぢさん率いるベースチーム。
しいたけ±Kのベース担当のかざねさんを始め、他の軽音楽部の3人も交えてレッスンがスタートしました。

音楽好きの家族に囲まれて育ったかざねさんは、しょーやおぢさんよりベース歴が上!「何も教えることないじゃーん!」と悲しがるしょーやおぢさんは、メトロノームに合わせたリズムキープの練習や楽器の手入れの仕方など、より実践的なベースの上達法についてレッスンしていました。

最後はドラムチーム。

こちらはドラムの基本となる8ビートの叩き方のレッスンに多くの時間を費やしていました。しいたけ±Kのドラム担当のかずきくんは飲み込みが早く、8ビートを早々とマスター。メトロノームに合わせたリズムキープのレッスンを経て、ドラムロールの練習など限られた時間でより多くのドラムスキルをマスターしていました!

1時間半のレッスンを経て、学校訪問プロジェクトは終了!

個別にアドバイスをもらったコザ高校軽音楽部のみんなは「P-famの皆さんにはリズムキープの練習やメンバー同士でのアイコンタクトを意識するなど、普段気にしていなかった基礎的なところから、ライブでも使える技を多く教えてもらいました。さっそく意識しながら練習に取り入れて、もっと楽器が上達するように頑張りたいです!」と元気いっぱいの感想をくれました。

学校訪問を終え、生徒たちと触れあった感想をP-famメンバーに尋ねると「教える立場で学校を回らせてもらっているけど、僕らも同じように高校生たちに教わることも多いんです。彼らって本当に純粋に『音楽が好き』っていう気持ちでバンドをしているんです。僕らはキャリアを重ねていく中で、どうしてもよく見せようと思って考えてライブをすることも多くなったんですけど、彼らと触れ合う中で『俺も音楽が好きだ』っていうピュアな部分に毎回気づかされます」と、ともくん。

同じくP-famメンバーのレン様は「僕たちも高校生の時にバンドを始めたんで、原点を思い出します。高校生たちは発想が柔軟!形にとらわれないで、自由に自分たちの表現したいようにパフォーマンスしているので、こちらが参考にさせてもらっています(笑)」と話してくれました。

石川さんは学校訪問プロジェクトの今後の展開について、「不安が大きい中でスタートしたプロジェクトですが、いざ始めてみると生徒だけでなく、先生たちにも快く受け入れてもらえていると感じます。やはり、先生たちも私たちと同じように軽音楽部が置かれている現状をどうにかしたいと考えていたみたいです。子どもたちがこのプロジェクトを通して音楽のことを深く知り、卒業した後もずっと音楽をやり続けてくれるきっかけになれると信じています。今後はバンドインターハイに関係なく、独立した企画として展開して、より多くの学校を訪問していきたいとかんがえています」と、音楽の島・沖縄のさらなる発展を担えるようにと力強いコメントをしてくれました。


【編集後記】

沖縄バンドブームに沸いた2000年代初期。多くのバンドがこの島から華々しくデビューし、県民を勇気づける活躍を果たしました。そして、その時代に影響された世代が今、沖縄のライブハウスで日夜素晴らしい音楽を奏でています。それは沖縄バンドブーム当時とはまた違った形で、自分たちの手でシーンを作り上げていくという熱量が現場にはあふれています。

その次につながるのが第三世代の高校生ミュージシャンたち。そんな彼らの芽を育みたいとの願いで始まった今回のプロジェクトは、この先の沖縄音楽シーンにとって大事な種まきの時期に当たるのかもしれません。

私たちの心を震わせてくれる新たな才能の原石たちの成長を楽しみに、それを支える石川さんやバンドマンたちの挑戦を陰ながら応援していきたいと思います。


【Live Info】
第18回 沖縄音楽市2018

日付:2018年5月26日(土)

出演者:P-fam、ひぇあふぉう、シシノオドシ、BeeRoom、HABADEMI、2★STAR

場所:ミュージックタウン音市場 3Fホール

時間:開場15時半、開演16時

料金:一般前売りは1500円。高校生以下は無料。

問い合わせはミュージックタウン音市場(電話)098(932)1949まで。

※バンドインターハイは、5月26日ミュージックタウン音市場1Fの 音楽広場にて開催。入場無料。時間は13時から15時半まで。
 バンドインターハイの出演者は、Sound of The Triangle(沖縄水産高校)、しいたけ±K(コザ高校)、りんく。(宜野湾高校)、4/4(美来工科高校)、りゅーくん(那覇高校)、千愛(読谷高校)の全6組。
 

~ この記事を書いた人 ~

野添侑麻(のぞえ・ゆうま) 琉球新報Style編集部、イベンター。音楽と湯の町別府と川崎フロンターレを愛する92年生。18歳からロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作っている人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。沖縄市比屋根出身。