沖縄のリズム流れる作品
座間味島で全編撮影したメード・イン・沖縄の映画「ココロ、オドル」。民宿を営むオバァと孫の周りにいる3組の家族を中心にさまざまな出来事が巻き起こり、本当の家族とは…と問いかけるストーリーだ。作中でサバニ職人を演じた加藤雅也さん、民宿で宿泊客をもてなしながら島の人との絆を大切にする孫役の尚玄さんに、思いを聞いた。
「沖縄の方たちに見てほしい映画です。僕はこの作品を日本映画とは思っていなくて、沖縄映画だと思っているんです」と力を込める加藤さん。県出身の岸本司監督の作品づくりを応援したい気持ちで、本作への出演を決めたという。
「座間味の風景の中に、沖縄が持つ独特のリズムが流れているんですよ。このリズムは、東京や他県では作り出せないもの。映画を見るとリズムを感じ、沖縄のアイデンティティーに気付くことにもつながると思うんです。沖縄らしさを再認識して、これからの日々を大切にしてほしいです」
今や日本を代表する俳優の一人となった加藤さんのデビュー映画は、座間味島が舞台の「マリリンに逢いたい」(1988年)。
「約30年ぶりに座間味に行ったら、島の人たちはDVDで100回くらい見たって言うんですよ。本当かな~と疑いましたが、年に3回程度見たら計算が合うので嘘じゃなかった(笑)。伝説の映画として愛してもらえてうれしいですし、2000年には香港映画『恋戦沖縄』 の撮影で来たので、沖縄には縁を感じますよ」
岸本監督が構想中の「琉球ノワール」というジャンルの映画製作に期待している加藤さん。
ノワールは闇社会や犯罪をを描く映画を指し、琉球ノワールはその沖縄版。「アクションや事件などを絡める内容で、基地問題を抱えている沖縄だからこそ、リアリティーある作品を作り出せます。ぜひ関わって、実現させたいです」
共演した尚玄さんについては、世界を股にかけてセルフプロデュースし、多くの人脈を築いている俳優だと思っているそう。
「自分の目で見て判断する数少ない俳優の一人ですよ。素晴らしいと思っているし、岸本監督を紹介してくれたのも彼でした」
練り込んだ脚本が光る
県出身者で東京で芸能活動を始めた尚玄さんは、岸本監督の作品には10年以上関わっている旧知の仲。
「雅也さんのような著名俳優が出演してくださり、作品の魅力が広がりました。雅也さんは、映画は見てもらって完成と思っているので、映画館に足を運んで観客の皆さんとの時間を楽しむんですよ」
3話からなるオムニバス形式で展開していく本作では、オバァ役の吉田妙子さんと共に全話出演し、語り手の役割も担っている。
「3つのテーマがありますが、僕が演じている雄飛(ゆうひ)という青年の成長も描かれています。車に話しかけるシーンもあり、気に入ってるんですよ(笑)。3つの話は実は同時進行で、風景や登場人物の服装などで発見できることがあります。脚本を練りこんだ監督のこだわりが詰まった作品なんですよ」と、作品について語ってくれた。
家族の形と愛描く
本作で加藤さんが演じるのは、第3話で島に流れ着きサバニ作りを手がけるようになった寡黙な男。
「岸本監督の心の中に加藤雅也像があるみたい。訳ありな過去を持っているような雰囲気の役を求められます。(NHK連続テレビ小説の)『まんぷく』で僕が演じている、アキラ風のコミカルなイメージはないらしい」と笑う加藤さん。「殴られても家族を思い立ち上がる男。いい話が詰まっている映画ですよ」
尚玄さんは「ウチナーンチュとして映画に関わっていきたいので、オバァの人柄や食の魅力も盛り込まれていてうれしい。家族にはそれぞれの形があり愛がある。すれ違いを解決し、自然や世界とのつながりも感じる作品なので見てください」とアピール。
家族や人との絆で「どんなことがあってもやり直せる」とメッセージをくれる本作。登場人物と心踊らせながら見てほしい。
<プロフィル>
加藤雅也(かとう まさや)
奈良県出身。モデル活動後に俳優の道へ。映画「マリリンに逢いたい」(1988年)で主演を務め、以後映画・ドラマ・舞台で活躍中。94年には日豪合作「セブンスフロア」に出演するなど、国際的な活動も続けている。NHK連続テレビ小説「まんぷく」に出演中で、主演映画「二階堂家物語」が3/16(土)より桜坂劇場で上映
<プロフィル>
尚玄(しょうげん)
沖縄県出身。大学卒業後、世界中を旅しながらヨーロッパでモデル活動。2004年に帰国し、俳優活動を始める。05年、戦後の沖縄を描いた「ハブと拳骨」で映画デビュー。アメリカで演技を学び、現在は日本をベースに海外作品にも多数出演。映画「STAY」(監督:Darryl Wharton-Rigby)、「Romusha」(監督:Opie Zami) などが公開を控えている
(饒波貴子)
ココロ、オドル ~満月荘がつなげる3つのストーリー~
2019年/日本
監督・脚本:岸本司
出演:尚玄、吉田妙子、ダニエル・ロペス、仲宗根梨乃、仁科貴、池間夏海、加藤雅也 他
Twitter @kokoroodorumov
◆桜坂劇場で上映中
(2019年2月28日付 週刊レキオ掲載)