暑い日々が続きますが、そんな中、背筋も凍る?!涼しくなりそうな企画を、沖縄のお笑い界の実力派4人が仕掛けています。山城智二、ベンビー、知念だしんいちろう、「初恋クロマニヨン」の松田正がなんと監督に。メガホンを取り、ホラー作品を制作中なんです。沖縄らしい風習などを取り入れた短編映像が8月に「しに怖い夜」というシリーズでオムニバス形式で放送・上映されます。4人に作品について語ってもらいました。
(執筆:フリーライター・饒波貴子)
「沖縄芸人ナビ」は4月から「週刊レキオ」(毎週木曜発行)と連動しました。毎月第1週目のレキオで関連記事が読めるようになりました。ぜひご覧ください。
ホラー作品「しに怖い夜」で監督・脚本を担当する4人。(左から)山城智二さん(FECオフィス所属/http://www.fec.okinawa)、ナビ芸人:松田正さん(よしもとエンタテインメント沖縄所属/http://yoshimoto-entertainment-okinawa.jp/)、ベンビーさん(オリジン・コーポレーション所属/http://origin-oze.com)、知念だしんいちろうさん(FECオフィス所属/http://www.fec.okinawa)
大喜利感覚でホラー作り
松田ナビ:芸人が短編映像を作る、今回の企画のきっかけは?
知念:怖い話のドラマは、県内で毎年放送されていますが「お笑い芸人が監督をして撮ってみたらどうなりますかね!?」という話を、プロデューサーの高山創一さんからいただきました。最近話題の「闇営業の誘いか!?」と気になりましたが、ふたを開けたら事務所の社長・山城智二もメンバーに入っていた! 大丈夫なんだ~と安心したところです(笑)。
山城:事務所了解の上での闇営業とも言えるな(笑)。
松田ナビ:芸人さんは怖い話を考えられるんじゃないか、という発想で始まった企画です。僕自身はメンバーに入れてもらえるならぜひやりたいと、とてもうれしかったです。智二さんはどんな思いから?
山城:俺は映画好きで、高山プロデューサーとは定期的に会っています。おっさん2人でおしゃれなカフェでランチしながら、映画話をしている(笑)。そんな関係なので「芸人さんがホラーを撮るの面白くないですか?」と相談されて、興味を持ちました。何かの本で「笑うことと怖いという感情は表裏一体」と書かれていて、その紙一重な部分はすごく納得していたので、今回の話が出た時「とってもいい企画」だと賛成したんです。しんいちろうは高山プロデュースで短編映画の監督経験があり、ベンビーは高山監督作品『ハイサイゾンビ』の主演俳優だから、2人とも信頼されている。初恋クロマニヨンは映画的なコントをやっていて、「ネタを書く松田ならできる」とピンと来たのでこのメンバーだったらいいな~、俺もやりたいと声をあげた感じです。
松田ナビ:映画好きな智二さんに聞きたいのですが、映画好きな人はホラーに行く流れなどあったりするんですか?
山城:ホラー作品から撮り始める映画監督は結構いる。例えば『スパイダーマン』シリーズで知られるサム・ライミ監督は、『死霊のはらわた』で名を上げた。アイデア次第で恐怖感を出せるホラー作品は有名スターをキャスティングしなくていいし、低予算で制作できるので初期のころに手掛けるのは間違いないと思う。
松田ナビ:怖いものはたくさんの人が興味を持ち、制作費低めで作品づくりができて理にかなっていますね。ベンビーさんはどうでした?
ベンビー:『ハイサイゾンビ』に出させてもらうまで、怖いのはとっても苦手だった。でも撮影現場で血とかを見るうちに慣れて、すっかりゾンビ映画好きになってしまってね(笑)。ゾンビ作品撮りたいって思うようになったけど、言うのはおこがましいしな~という中でこの話をいただいて。ゾンビ映画ではないけど(笑)、撮ってみたい気持ちになりました。
松田ナビ:プロデューサーを交えた打ち合わせで、ゾンビ系のアクションものにならないようになど話し合いましたね。それぞれの作品、日本風の怖い話に仕上げられますかね!?
山城:できそうだよね。プロデューサーの意向で規定を作った上で、どう怖くしていくかという進め方は芸人に合っていると思う。与えられた材料とルールで作るのは、みんな得意じゃないかな。
知念:ホラー大喜利を展開する中で期待にどう応えていくか、という感覚です。面白くするのじゃなくて怖い方に行く。
ベンビー:智二さんは最初からボケがちでしたね。ボツになりましたけど「カリカリくん」(笑)!?
松田ナビ:子どもが身長を測ってカリカリと柱に傷を付ける。それをずっと続けていたら怖いんじゃないかっていう(笑)。まだボケてます(笑)?
山城:本格的に内容を考えようってなったら思い付かないね(笑)。でもカリカリしてるあの一瞬怖いでしょ。そこから話が膨らんでホラーというか、笑いになっていく。あ、笑わせるのはダメか(笑)。
知念:柱をカリカリ傷付けるのは確かに怖い。それぞれが撮りたい怖いシーンのイメージを持ち寄った時、智二さんは「車爆破したい」とも言ってました(笑)。それはホラーですか!?
山城:誰かがそんなこと言い出すから、プロデューサーはルールを設けたんだよ。無茶なことはするなって(笑)。
松田ナビ:車の爆破シーン入ってきたら、石原プロ混じってるな~ですよ(笑)。ミーティングを重ねて、ようやくまとまっていきましたね。しんいちろうさんはどう思いましたか?
知念:一緒にホラー企画に関われるだけでテンション上がったのと、3人がホラーをどう調理して作品にするのか、めちゃくちゃ興味があります。
芸人感のない現場
松田ナビ:しんいちろうさんは2本目の映像作品。今回のタイトルは「運転代行」ですが、撮影はどうでしたか?
知念:撮り終えてこれから編集なので、何とも言えませんが・・・いい感じに撮らせてもらったかな~とは思います。僕ら素人監督がいて、周りを固めているスタッフさんは、たくさんの映像作品を作ったプロの人たち。頼もしくてアイデアをもらえる分はもらい、任せる部分は任せてという感じで大変ながら楽しかったです。実は、前作は伊江島を舞台にしましたが、映像はとても難しいと思いました。お笑いと似ている部分はあるけれど、全く違う感覚がいくつかある。前回、ちょっと後悔のようなものも残り、もっと出来るようになりたい気持ちがあったので、今回また機会をもらえて、本当にうれしかったです。
松田ナビ:車の中という設定が、大変だったと聞きました。
知念:停めている車を動いているように撮ると説明されましたが、どうしても動いている車を撮りたかった。お願いして、車を走らせて撮影しました。アドバイスを受けるべきところは、もちろん素直に聞きました。
松田ナビ:僕は「ピアス」と「トモダチ」という2本を撮りましたが、スタッフさんたちが本当にプロフェッショナル! カメラマンさんは撮影1週間前からBGM状態で家で映画を流し、撮影するリズムを叩き込むそうです。とにかく感動した現場でした。
知念:松田の現場を見に行ったんですけど面白かった。ボケないですししゃべりもせず、芸人感がないんですよ。ふと・・・俺たちネタ作る時はこんな顔しているのかなって思いました。撮った映像を監督の松田がモニターで見て、何かブツブツ言ったり、いいシーンでニヤッとなったり。自分も同じでしょうし、ネタ作っている時はこんな感じかもですね。
3人:なるほど〜、そうかも!
山城:松田の現場を見て感じたのは、役者さんへの指示が上手。表情や動きを分かりやすく伝えていて、実際に良くなっているのがはっきり分かった。見てて気持ち良かったよ。
松田ナビ:ありがとうございます! カット割りとかは教わりながらなので、強いてできることといえば演じて見せること。芸人ができるのはそれかなと思い、しっかりやろうと心掛けました。それくらいやらないと存在意義が・・・(笑)。
山城:最初はそれでいいんじゃないかな~って思うんだよね。カメラマンさんの方がカット割りの経験に長けているし、何本も映画を作っているプロデューサーは、俺たちより現場のことが見えている。上手にアドバイスを受けつつできるところにこだわりを持ったり、表情や雰囲気を作ったり。それをすごく感じるいい現場でした。
知念:監督が「カット!」とか言うの、松田は上手だったんですよ(笑)。コントでは見たことあったけど練習した(笑)!? 立派に監督してたな~(笑)。
松田ナビ:練習しましたし、何て言うのか前日に確認しました(笑)。「アクション!」って声を出す監督をテレビで見たことありましたが、そもそも何て言うんだろうって疑問でしたから。
山城:気持ちが入り過ぎて、「カ〜〜〜ット!」って声が上ずったりしてね(笑)。
知念:恥ずかしい(笑)。智二さんとベンビーさんはこれから撮影ですから、監督としての掛け声を悩むはずですよ。
ベンビー:俺は出演もするからね。相手と絡むシーンがそんなになく、どう演じてどう撮られるか考えています。幽霊役の人にどう怖く動いてもらうかも考えるけど、1話10分程度なので出演者はほぼ自分だけ。「よーい、はい!」って自分で言って演技に入るのか、それとも誰かが言うのか(笑)!? 切り替えが難しいのでスタートの合図は誰かにお願いしたい。「カット!」は自分で言ってもいいけどね。
松田ナビ:監督・脚本・主演を担当するベンビーさんならではの悩み。ジャッキー・チェン状態ですね(笑)。自分が書いた脚本を思い描いた通りに映像にできる、とも言えますね。
ベンビー:こうしたいっていうイメージを自らやるしかないね。皆さんは監督という位置に一気に飛び込んでいるけど、俺は半分監督・・・なんだろうな~。
松田ナビ:ピン芸人のベンビーさんは、自分で考えたことを自分でやるという意味で、普段の活動に近いのかもしれませんね。
ベンビー:自分の顔をイメージしているので、そうなのかも。でも怖い話を考えるのは難しかったな~。複雑に描かないようにして、体験談がいいのか変えた方がいいか、いややっぱり体験談にする(笑)。今回最初に決めたのは濡れている幽霊。濡れている女怖いなっていうところと真夏だから海を入れる。王道の怖さを描く中で、ワンカットだけでも個性を出すのが今回のテーマかな。しっかり怖がってもらい、芸人としての体も持ちたい。
子どもが怖がるチョンダラー!?
松田ナビ:現場で知ったのが、一個一個が「不気味な絵」。スタッフさんの力を借り、不気味な絵が撮れた。それが大事ですごいことだと思えました。
山城:真正面より、ちょっと下のアングルで撮った方が怖くなるシーンとか絶対あるもんね。それを見つけて、どう重ねていくのかが重要。
松田ナビ:僕らは台本に重きを置いたりする。とにかく面白い台本を書こうと思う。でも映像のプロは怖い台本があっても、いかに怖い映像を撮るかにこだわると感じました。
山城:そうだよね。見る人たちは映像しかないから、そこが怖くないと。いくら台本に怖い言葉が並べられていても伝わらない。
松田ナビ:そうおっしゃる智二さん、中身が決まってないそうですが・・・(笑)!?
山城:とにかくチョンダラーを描きたい。滑稽な存在だけど、子どもたちに怖いキャラとしてとらえてもらいたくて。独特な雰囲気があるし、作品を見た子どもたちが「エイサーはやばい。チョンダラーが怖くて見れない」と思ってほしい。全島エイサーの客が減るくらい怖がってほしいけど、そう言うと怒られそうだな(笑)。でもそれくらい強烈なチョンダラーを描きたいというかさ。
松田ナビ:僕、小さいころ、チョンダラー見て泣いてました。いかにも怖いナマハゲやパーントゥーとは違う、何ともいえないピエロ的な不気味さがチョンダラーにはありますよね。
山城:エイサーは念仏踊りから発展した説があり、あの世から来たご先祖様たちを送り届ける伝統芸能だといえる。そこにいるチョンダラーは、あの世とこの世をつなぐキャラクターともいえる。たどってみると、昔の首里ではお祝いごとに芸を披露して金品をいただく芸人集団がいた。それがチョンダラー。彼らは芸を見せながら各地を回り、教えていた念仏踊りがエイサーに転じたという話もあって、芸人が監督する作品の登場キャラクターとしてはバッチリだと思えるんだよね。
知念:大人は何とも思わないけど子どもが怖がるのがチョンダラー、という智二さんの話にハッとしました。大人はエイサーにチョンダラー役の人がいると知っているから、怖くない。でも子どもは、感覚で怖がります。知識がなくて感覚的に恐怖を覚えるのがホラー作品っぽい、と思えますね。いろいろと話して気づいたのが、僕らは理由を付けて、話の流れで怖くしようと持って行きます。でも本当は感覚で怖く思わせるのがポイント。それを身に付けたら、お笑いにもフィードバックできるのではないかと思いましたね。映像を見ることで怖い感覚がすり込まれていくのが面白いのかなと。
松田ナビ:そうかもしれない! 子どもが怖いと思う、脳で怖がるような。
知念:脳の話をされると分からないけど(笑)、子どもは細かいストーリーは気にしなかったりするからね。
松田ナビ:最後に意気込みを。僕が撮った2作の共通テーマは「女性の執着心」。その恐ろしさと霊的な怖さが交わり、誰が見ても怖い作品になっています。ぜひ見ていただきたいです。
知念:お笑い要素はありませんが、「運転代行」という僕の作品は代行運転手と利用する女性の会話にこだわったつもりです。その会話からのギャップを生かした怖いアプローチを考えました。作品ごとに4人それぞれの個性も出ていますから、そこも楽しんでいただきたいです。
ベンビー:「波間の女」という作品で僕1人の夜中のシーンから展開するので、どうアクセントを付けてクライマックスに持っていくのかがポイント。(インタビュー時点では)撮影前なので何とも言えませんが(笑)、そういった展開を大事にしたいです。そしてこの4人で作品を撮るオムニバス企画として立ち上げたので、今後もシリーズで続けていきたい。
山城:僕も今から撮るので、下手なこと言うとプレッシャーに押しつぶされそうですが(笑)、こだわりは持ちたい。そして芸人が監督をしているだけでも、個性がにじみ出る作品になるだろうと思っています。芸人の俺たちがネタを作っているところは笑えないし、はたから見ると怖い。本当にネタをカリカリ書いているし(笑)、そんな芸人の狂気が作品に出てくればいいな~って思いますね。
知念:芸人の狂気! いいですね。
ベンビー:評価されるのが怖いから褒め合おう(笑)。
松田ナビ:その通りですね。みんなが怖がるホラー作品、頑張って完成させましょう!
【インフォメーション】
「しに怖い夜」
公式Twitter:@kowainight
【テレビ版:約45分】8月10日(土)16時〜琉球朝日放送(QAB)で放送
【上映版 :約60分】
●那覇市:オキナワポータル(☎ 098-917-4250)
8月3日(土)・4日(日)学生の部17時〜/一般の部19時30分〜
●石垣市:ゆいロードシアター(☎ 0980-83-3150)
8月4日(日)・5日(月) 19時30分〜
●那覇市:よしもと沖縄花月(☎ 098-943-6244)
8月5日〜23日・平日のみ16時〜/8月12日(月)と18日(日)は12時〜
●名護市:ホテルゆがふいん沖縄(☎ 0980-53-0031)
8月18日(日)12時〜・14時〜・16時〜
※料金や詳細は会場にお問い合わせください。
ライタープロフィル
饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。