海辺の散歩で出会える植物(その1) しかたにさんちの自然暮らし(32)


海辺の散歩で出会える植物(その1) しかたにさんちの自然暮らし(32)
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自然の海岸では、砂浜と森がなだらかにつながっています。

暑さもひと段落し、サンゴ礁の砂浜散歩が気持ちよい季節になりました。波打ち際から砂浜を眺めると、背の低い草から大きな木まで、順番に並ぶ独特の景色が見られます。砂の表面を覆っているのはツル植物。次に高さ数十センチ程の草花。その後ろにはこんもりと茂った低木やアダンが続き、一番後ろに背の高い木々。 この植物の並びは、海からの潮風や砂地の乾燥に耐える強さが異なるから。時には台風の大波をかぶっても枯れない植物だけが、砂浜にツルや根を伸ばします。その後ろの木々は、強い海風に押されながらも枝を広げ、海岸林となって海沿いの畑や家を守ってくれています。

今回は、南の島の海辺に育ち、しかも暮らしに役立つ植物達をご紹介しましょう。

1 ランプのような花 クサトベラ

ツヤツヤした楕円形の葉は、少しまるまっています。
花びらは、薄いフリルで縁取られています。花の右上にあるのは蕾。奥の方の、白くて丸いのは実。

 クサトベラは、葉がツヤツヤで真夏でもしおれません。葉の表面にある分厚いクチクラ(キューティクル)が、強い日差しを跳ね返し、水分の蒸発を防ぐのです。

お肌のお手入れ必要なし!という感じ。見栄えが良いので、街路樹としても使われます。枝の先の方に咲く白い花は、小さなランプと、そこから広がる光のよう。白い花びらは下半分だけで、ランプのような部分は先が下を向いた雌しべです。

2 ベルベットの手触り モンパノキ

銀色っぽい木は、海辺の強い光を浴びてよく目立ちます。
びっしりと生えた細かい毛は、強い光を反射して、葉を守っています。

 モンパとは「紋羽」。柔らかく毛羽立った布のことです。葉っぱの表面に細かい毛がびっしりと生えて、柔らかい手触りなんですよ。遠くから見ると、葉っぱは少し銀色っぽく見えます。 幹は黒くてごつごつしていますが、材質は軽く柔らかいので、ウミンチュが使っていたミーカガン(ゴーグル)は、この木を削って作られたそうです。

3 繊維が役立つ アダン

色づいたアダンの実。完熟するとポロポロ落ちて、オカヤドカリの餌になります。
まだ青いアダンの実。白っぽい枝が、うねるように伸びています。
枝先にある真っ白い葉の総は、アダンの雄花。

 トゲトゲで縁取られた硬く細長い葉は、アダン。葉の繊維はとても丈夫で、昔は草履や籠などを編むのに利用されました。

パナマ帽を編む技術が受け継がれ、最近ではおしゃれで涼しげな帽子が創られています。

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パイナップルに似た実は、オレンジ色に熟すと甘い香りがしますね。この実は浜辺に暮らすオカヤドカリ達の大切なご馳走。落ちた実にたくさん集まって、美味しそうにつまんでいますよ。

4 花の色が変わる オオハマボウ

透けるように薄い花びらは、風にゆれ、木陰に涼しさを運んでくれます。
手を広げたほどの大きさの、ハート型の葉。裏側には、ビロードのような毛が生えています。

 海岸林を作る木の一つです。沖縄ではユウナと呼ばれ、実はハイビスカスの仲間。大ぶりの黄色い花は海辺の木陰によく映えます。

咲き始めは鮮やかな黄色ですが、海で遊んで夕方に帰る頃には、夕焼けのように全体が赤っぽく染まります。

また、ユウナの枝は、エイサーの太鼓のバチに使われます。軽くて強い枝は、長時間太鼓を叩いても疲れず、手が熱くならないのだそうです。

 海辺の植物は、暮らしの中で適材適所に利用されてきました。昔からの知恵に習いつつ、新しい利用方法を考えて試してみるのも楽しそうですね。

鹿谷法一(しかたに自然案内)

 しかたに・のりかず 琉球大卒、東大大学院修了、博士(農学)。広島生まれ。海に憧れて沖縄に来て、もう30年以上。専門は甲殻類。生物の形と機能の関係に興味がある。趣味は本とパソコンとバイクいじり。植物を育てるのも好き。