2018年10月、経団連の中西宏明会長が採用面接などの解禁日を定めた就職活動のルール、いわゆる「就活ルール」の廃止を発表しました。
その後、大学や企業で波紋が広がり、政府は「当面は現行日程を維持する」との方針を示しましたが、新卒一括採用の見直しなど雇用の抜本改革に向けて、議論が始まる見通しです。
今後は政府主導で方針が決まるのか、それとも横並びの採用活動が終わり、各社が独自の戦略を展開する時代になるのか…。
ただでさえ、人手不足のこのご時世。優秀な人材を毎年確保するのに四苦八苦している経営者や採用担当の皆さんは、またまた悩ましい問題が増えてしまいましたね。
筆者は日々、沖縄の中小企業の最前線で採用活動のお手伝いをしています。本コラムを通じて2019年以降、沖縄での新卒採用はどう進めるべきか、県内学生たちの現状を考察しながら考えてみたいと思います。
◇執筆者プロフィル
小宮 仁至(こみや ひとし) ファンシップ株式会社 代表取締役
広告会社やWEBマーケティング会社を経て、2015年にファンシップ(株)を創業。2016年より「レンアイ型採用戦略」を提唱し、企業へのセミナーや求職者への採用支援を実施している。1979年生まれ 熊本県出身。うちな〜婿歴10年の2児の父。
※これまでのコラムはこちら→「働き方改革@沖縄」(https://ryukyushimpo.jp/style/special/entry-786593.html)
合説ブースに学生が来ない!就活生はどこに消えたのか
2018年10月某日。とある沖縄の有名企業の採用担当者のKさまに呼び出され、ある相談を受けました。毎年毎年、一定数の新卒採用を行っている県内では大手企業です。
「小宮さん、イマドキの学生はどこに消えたんですか…」
10月というのは、現行の就活ルール・就活スケジュールでは、企業は内定を出し終え、今年度の総括と来年度の採用戦略を立てていく時期で、採用担当者にとっては“年末年始”のような季節です。
Kさまとは3年前に知り合い、筆者が主宰した学生と企業をつなぐマッチングイベントに積極的にご参加いただいていました。有名企業の採用担当者という敷居を感じさせず、学生ともフランクに会話ができる、とても優秀な方です。
そんなKさんが、「ちょっと、さすがに困ったなぁ…」という表情で頭を抱えていらっしゃいました。
「今年は合同企業説明会への出展も、むしろ例年より増やしたくらい。それなのにエントリー数が過去最低なんですよ…」
「学生の数が減っているとは言え、合説(合同企業説明会)自体には、学生は来ているんです。もちろん総数が減っている印象はあります。でもね、今年特に印象的なのは、学生の動き方なんです」
学生たちはターゲットを絞っている
そのKさんの印象とは、こうです。
合同企業説明会とは通常、企業と学生の初めての出会い場。例年なら一部の人気企業に学生が集中することはあっても、一応、他のブースも見て回る学生が大半でした。
企業側にとっては、ブースに来場する学生が例え自社を「第1候補」としていなくても、ブースに足を運んでもらえれば、そこから自社のアピールをして充分巻き返せるチャンスがあると考えています。
それがKさんや、沖縄の多くの企業が行ってきた新卒獲得の戦略でした。
しかし、今年度の学生は「自分が目当てとする第1候補の企業の説明を聞くとさっさと帰ってしまう」というのです。
人気企業のブースは、座りきれず待ち時間も出ているようなので
「どうせ、待っているならうちの説明聞いていかない?」と声をかけると
「いや。いいです」と断られたとのこと。
これには長年、新卒採用を担当してきたKさんも面食らったそうです。
合説・就職ナビ・エントリーシートが機能しない
筆者は、人手不足の企業に、定着する人材が集まるように採用の仕組みをつくる採用コンサルタントを生業にしています。直接、人材派遣などの事業はしていないのですが、3年前、ある大学教授から衝撃的なデータを明かされて以来、中小企業と大学生の交流の場を各種イベントを通してつくってきました。
- 大きな会議室ではなく、ライブハウスで夜、就活を行う「就活フレア」。
- 企業の担当者が大学の方に出向く「レンアイ型合説」。
- 社長と学生が上下関係なく飲食をして語り合う「相席社長」
このようなイベントを行うきっかけになったのは、沖縄県内の4年生大学生のうち「就職先が決まらず卒業した人数」の割合が約25%、つまり「4人1人は就職していない」というデータを知ったからでした。
この数字に対して、「公務員志向が強い沖縄の学生の公務員浪人だよ」とか「引きこもり・ニート・親のすねかじりでしょ」という声もあったのですが、筆者自身、この25%の若者に共感を覚える感覚もあり、今も現役大学生たちと交流を続けています。
2018年の就活生はどこに消えたのか!?
筆者が接してきた学生を通して、沖縄における就活戦線の異変を自分なりに読み解いていきたいと思います。
仕事を創り出せる学生が増えてきた
前述の統計上、以前から約25%ほどの学生が就活ルールには適合していませんでした。そして数年前、この25%の中から現れてきたのが
「自分でバーを経営する学生」
「イベント企画し100人規模の集客ができる学生」
「学生起業家として活躍する学生」
など、自分で仕事を創り出すことができる学生たちでした。
今から数年前に一部の先駆者(あえてレッテル貼りするなら「意識高い系」と呼ばれる層)たちが、今までの沖縄の大学生像を打破しようと活躍し始めたのです。
2018年に就職活動をした学生たちは、その頃「大学1年〜2年」だった彼らの後輩に当たります。つまり、既存のルールやレールに乗らず、大人たちと対等に渡り合い、活躍している身近な先輩を見て、本人たちも影響を受けてきたのです。
そんな2018年の就活生は、「そもそもシュウカツをしなくていいように、以前から自分でネットワークを築いて動いてきた」という学生たちが少なくないのです。
「LCC」「SNS」「手厚い学生支援」の3点セット
何も、みんながみんな大学1年生のうちから就活を始めているわけではありません。ですが、今の大学生は、よく世間で言われるような「草食系」「何にも興味を示さない若者」「消費欲がないつまらない人種」などではありません。
先日、インタビューした大学3年生のある学生は、バイト代を貯めて大学の休みごとに海外旅行に出かけています。既に10カ国を旅したとのこと。最初の海外体験は大学に貼り出されていた「夏休み海外短期留学」。学生の実質負担は7〜8万円程度で、ベトナムで2週間インターンシップができるというプログラムだったそうです。
別の学生は、東京の大学に行った友達の家を宿に、格安航空会社のチケットを使って2カ月に1回は東京のあるアーティストのライブに駆けつけ、そこで出会った同世代の友人とSNSで交流を深めていました。そのネットワークのおかげで就活は、東京のかなりピンポイントな業種に絞り込むことができ、効率的に就活をしていました。
また、ある学生は海外ボランティアに参加したのをきっかけに世界中に友人が出来て、今度の休みには「韓国人の友達に会いに、ニュージーランドに行ってきます!」と嬉しそうに語ってくれました。ちなみにこの子の親は一度も地元を出たことがない親だそうです。
いかがでしょうか。言われてみると、そんな学生が増えていることに気がつきませんか?
今の学生たちがいかに、われわれ大人たちとは違った環境下に育っているのかを感じていただけるのでないでしょうか?
「LCC」「SNS」「手厚い学生支援」という環境下で育ったイマドキの学生にとって、東京や本土の街はもちろん、海外すらそんなに遠い世界ではないのです。
例え本人はまだ県外に行ったことがないにしても、そういう経験をした友人や先輩後輩が身近にいて、そんな彼らがSNS上で発信する情報を日々受け取っているのです。
「機能不全」を企業が見直す機会に
「就活ルールを廃止する」という経団連の発表があろうが、政府が当面は現行日程を維持する方針を固めていようが、ましてや、既に外資系企業・ベンチャー系企業は現行のルールに従っていなかった背景があろうがなかろうが、
「そもそも就活をする学生側が、就活ルールを必要としていないのではないか、」と筆者は考えています。
筆者は採用を恋愛に置き換えて、コンサルティングをすることを生業にしています。冒頭の「合同企業説明会で学生が集まらない…」と頭を抱えていたKさんに申し上げたことはこうです。
「合説って、そもそも恋愛に例えると合コンですよね? 初対面同士が、恋愛したいのを前提に出会う…という意味では。でも、そもそも出会いって合コン以外にもありますよ。合コンは確かに便利ですけど、そればっかり行ってると、本当に大事な出会いを見逃しませんかね?」
新卒採用「横並び主義」から脱却を
もちろん沖縄県内でも、「就活ルールは必要だ」と考える企業もあります。
◇参考記事:就活ルール廃止 沖縄県内の企業はどうなる?
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-824481.html
筆者は就活ルールの廃止は賛成の立場です。
なぜなら、既に機能不全に陥っていたこのシステムを、企業ごとに考え直すいい機会になると思うからです。
学生は既に自分たちの価値観で各々に個性的に動き始めています。画一的・横並び主義で採用活動をしていては、どんどん学生から見放されていくことでしょう。
しかし逆に、今まで学生に見向きもされなかった企業に、驚くような優秀な学生がエントリーしてくることだってあり得る時代になりました。
合コンで、その場限りのアピールをしてもSNSで調べればすぐにボロが出る時代です。学生の方から「御社みたいな会社で働きたいのです!」と言わせるような採用戦略を持つこと。まさに結婚を前提にした「真剣なお付き合い」を始めるつもりで、来年の新卒採用を取り組んでみてはいかがでしょうか?
執筆者プロフィル 小宮 仁至(こみや・ひとし)
ファンシップ株式会社 代表取締役
「レンアイ型採用コンサルタント」「レンアイ型就転職コンサルタント」として、商工会議所など公的機関でのセミナーを随時開催し、2016年以降300社以上が受講。就・転職者向けセミナーや個別相談300件以上、中小零細企業向けの採用コンサルティングでは個別相談企業100件以上、契約企業で6カ月以内の採用成功率は87%。沖縄県商工会議所連合会エキスパートバンク登録専門家、沖縄県産業振興公社登録専門家。1979年生まれ 熊本県出身 2002年より沖縄移住。うちな〜婿歴10年の2児の父。
【告知】新卒採用緊急対策セミナー:12月18日午前10時~11時半、沖縄県立博物館・美術館(博物館講座室)
詳細はこちらのサイトをチェック→中小企業と人材を結ぶ事業ハイサイプロジェクト