採用できない会社の9割以上がやってしまっている仕事の呼び方【働き方改革@沖縄(14)】


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ただの事務員という仕事はない

「A子さんの、社内での役割ってなんですか?」

「私ですか?事務ですよ。事務。」

創業10年も経たないベンチャー起業ながら、現在30名ほどの規模になり沖縄県内で誰もが知る大手企業が取引先である住宅設備の卸し業を営むコンサル先での会話です。
A子さんは、社歴がこの会社で3番目に古く、しかも社長とは前職時代の同僚でもあります。会社の同僚からの信頼も厚く、一目置かれる存在。みなさんの会社にもそういうムードメーカーというか、会社の「おへそ」的な立ち位置の人っていませんか?

◇執筆者プロフィル 

小宮 仁至(こみや ひとし) ファンシップ株式会社 代表取締役

広告会社やWEBマーケティング会社を経て、2015年にファンシップ(株)を創業。2016年より「レンアイ型採用戦略」を提唱し、企業へのセミナーや求職者への採用支援を実施している。1979年生まれ 熊本県出身。うちな〜婿歴10年の2児の父。

こんにちは。人手不足の中小企業採用の専門家、小宮仁至です。私は日々、沖縄県内の人手不足の企業さまの採用のお手伝いをしています。専門家と言っても、データを並べて理論を押し付けるのではなく、その会社の眠っている本当の魅力を引き出すことから、始めることを信条にしていますので、「そこで働く人の声」は、一番念入りに聞き取りをするようにしています。

このA子さん。たしかに業務としては、商品の受発注の事務処理がメインです。ただし、会社が急成長し、忙しくなっている気配を感じると社長室のこっそり入っていって、「ねぇ、みんなピリピリし始めてるよ。」とか「社長が今やろうとしていることが、先走り過ぎて社員が置いていかれてるよ。不安だよ。」など、アドバイスとも忠告とも言えない、とっても大事なお話をされる役割もあります。

また、最近はその役割が浸透しているのか、会社の休憩室で「A子さん、例の件、社長に言ってくださいよ~」、「なんでよ!思っていることがあるんなら、あんたが自分で言いなさいよ!」みたいなやりとりも生まれているんだそうです。

ちなみにこのA子さん。社長の奥さんでも親族でもありません。また役員でもないし、創業メンバーというわけではありません。会社のナンバー2の人物は別にいらっしゃいます。
だからと言って私はこのA子がどうしても「事務員さん」の役割だけとは思えませんでした。

・社長秘書・社長アシスタント
・総務・経理統括のマネージャー
・社内コミュニケーション円滑のための潤滑油
・新人が入った時のメンター
・この会社の女性社員の働き方におけるモデルケース

などなど、明文化されていない色々な役割があるように感じました。

そうこれらの事は私が勝手に「感じる」わけです。つまり会社も、悪意があってこんなに重要なことを彼女に強いているわけではありません。また本人もこんな重要なことを担っている自覚が、明確にはありません。

どちらも、「言われてみれば、そうだなぁ」というくらい自然に、当たり前に、日常になっている風景なのです。

役職・雇用形態・職種の混同が採用ミスマッチの原因

さて、みなさん、「課長」「パート」「営業」これって、何の種類だと思いますか?私は採用の専門家として、毎日のように人手不足の企業さまの採用のお手伝いをしています。その中で、例えば求人広告の添削やアドバイスをしてほしいという相談も多いのですが、90%以上の割合でこれらの文言が混同してしまっているケースが多いです。

課長や部長というのは【役職】です。その会社の指揮命令系統の序列を表したり責任範囲を明確にするための名前ですね。

パートや正社員や契約社員というのは【雇用形態】です。ちなみにパート雇用でも社会保険の加入が義務付けられているので、最近、線引きはとても曖昧です。私としては「正社員の定義」すら企業のよって千差万別であることをいつも感じます。

営業や事務や制作というのは【職種】です。仕事の種類ですね。その会社の中で何を担当しているのかを表しています。ちなみに営業さんが集まったら営業部になりますが、事務員さん集まると総務部になりますね。事務部にはなりませんね。謎です。

突然、何の話かというと、私のところにご相談にくる人手不足の企業さまが出している求人広告なり、求人票を見ると、ほぼ100%この【役職】【雇用形態】【職種】を混同して書いてしまっています。私が「どんな人を採用したいんですか?」と尋ねると

「マネージャーが1名欲しいんですよ。まともな人材いなんですか!沖縄には!!」
「小宮さん、正社員が足りないんです。正社員が!2名!」
「営業が2名と事務員1名がいてくれたら、もうちょっと休みをあげられるのに・・・。」

こんな感じです(笑)

マネージャーって、何をする人のことなんでしょう?正社員って、会社によっては「パ―トさんのようにシフトを選べない人」という意味だけの企業もあります。営業って何を営業する人なんでしょう?ちなみに会社の定番商品を、長年のお付き合いがある取引先に配送をしながら、新しい注文を取ってくることを営業と呼ぶ会社もあれば、とある士業事務所では、有資格の先生ではないが顧問先に回って印鑑をもらったり書類を整える人のことを営業と呼んでいることもありました。

伝わりますでしょうか?【役職】【雇用形態】【職種】ってみんな同じ単語を使っているように見えて、実は会社ごとにまったく意味が違ったり、仕事内容が違ったりするものなのです。

それなのに、店頭に張り紙で「パートさん募集!」と書いたり、せっかく求人広告費をつかってまで「営業、急募!」とだけ掲載する企業さまがなんと多いことか…。
【役職】【雇用形態】【職種】が、会社によって中身が違うということは、求職者がイメージしている【役職】【雇用形態】【職種】も、また人それぞれだということになります。

結果、企業も求職者もお互いに「こんなはずじゃなかった…。」というミスマッチが至る所で起こるのです。そりゃあ、そうですよね。

ちなみに、私がコンサル先の企業さまの採用をお手伝いする中での経験上ですが、ほぼ100%企業側が今、出している「職種」と、実際求めているターゲット像が変わってきます。つまり、採用がうまくいっていない企業は、「採用しない人を求人している」ことになります。ミスマッチは起こるべくして起こっているというのが、私の実感です。

なので、【役職】【雇用形態】【職種】の整理や理解は前提として、できるだけ「仕事内容を伝えましょう」というのは、必ずお伝えしていることです。

役割を明確にして社内活性

さて、では冒頭のA子はどうでしょう?
【役職】なし
【雇用形態】正社員
【職種】事務  

これだけで、彼女のやっていることが表現されているでしょうか?正直、これでは5%も伝わっていません。

そこで、私のご提案なのですが、【役職】【雇用形態】【職種】以外にもう1つ【役割】をつけてあげてください。A子さんの場合、『社長秘書兼社内コミュニケーション円滑のための潤滑油』でもいいかもしれません。

みなさんの会社ではいかがでしょう?店長ではないけど、スタッフに心配りできる世話焼きパートベテランさんに何か役割ってつけてあげられませんか?管理職には向いてないけど、ムードが暗いときにパッと明るくなる笑顔のおじさんに何か役割ってつけてあげられませんか?まだまだ社会人としては未熟だけど、会社のブログを書かせて社内外の広報を任せることも立派な会社への貢献だと感じさせることってできませんか?

この【役割】で、手当がつくとか、時給を上げるとかは必ずしも必要ではありません。ただ、この役割こそが採用の時のミスマッチを防ぐだけではなく、今いるスタッフの承認欲求も満たされ、定着につながる大きなファクターになります。

【役割】をつけてあげることは、社長じゃなくてもできます。自分自身の役割をつけることは難しいかもしれません。まずはみなさんの隣にいる人に日頃の感謝を込めて、【役割】を伝えてあげてください。縦社会だった組織が、みるみるうちに人間味溢れる特徴的な組織に生まれ変わりますよ。

執筆者プロフィル 小宮 仁至(こみや・ひとし)
ファンシップ株式会社 代表取締役

http://www.funship.jp/

「レンアイ型採用コンサルタント」「レンアイ型就転職コンサルタント」として、商工会議所など公的機関でのセミナーを随時開催し、2016年以降1000社以上が受講。就・転職者向けセミナーや個別相談300件以上、中小零細企業向けの採用コンサルティングでは個別相談企業300件以上、契約企業で6カ月以内の採用成功率は87%。沖縄県商工会議所連合会エキスパートバンク登録専門家、沖縄県産業振興公社登録専門家。1979年生まれ 熊本県出身 2002年より沖縄移住。うちな〜婿歴10年の2児の父。