政府の経済財政運営の指針「骨太方針」は、5年で1兆円を投じるリスキリング支援が目玉の一つだった。外来語の「リスキリング」は「学び直し」と翻訳されることが多いが、ふに落ちない
▼政府はリスキリング支援、日本型職務給の導入、成長分野への円滑な労働移動という三位一体の労働市場改革で賃上げ実現を思い描く。リスキリング支援を受けられるのは転職希望者だけ
▼琉球・沖縄の歴史には学び直しの先達がいる。琉球王朝時代の政治家・蔡温だ。通訳のため20代で中国に渡った際、謎の隠者に「書物の糟粕(そうはく)をなめているだけ」と一喝される。うわべだけをなぞっているという諫(いさ)めである
▼ここから蔡温の学び直しが始まった。「人のために役立てる」が学問の神髄だと教わり、実学を身に付け、治水事業や農業改革で成果を挙げる。学びの動機は自己研鑽(けんさん)であり、社会貢献だった
▼政府が掲げるリスキリングは「学び直し」というより「転職向けの技術習得」。それも政府の経済施策の枠内だ。自己研鑽と社会貢献はかなうのだろうか。