台湾出身のツァイさんの目に映る違和感
台湾出身の蔡抒帆(ツァイ・スー・ファン)さん(37)は、5歳の長女を夫とともに育てながら、宜野湾市内の県自立生活センターイルカで事務局長として働いている。「まるこさん」という愛称で親しまれている蔡さん。沖縄出身の夫との結婚・出産をきっかけに台湾から沖縄に移り住んだ。子育て、学校、職場など。蔡さんから見た日本と台湾の女性を取り巻く環境の違いを聞いた。
高江洲洋子(琉球新報編集局記者)
「なぜ自分が」
蔡さんは19歳のころ交通事故で脊椎を損傷した。命は取り留めたが、歩行が不自由になり車いすを使うようになった。「なぜ、自分がこんな目に」。自暴自棄になり落ち込んだ。
リハビリをへて数年遅れで自宅に近い台南市内の大学に進学した。大学の構内では人目が気になり、授業や用事のある場所以外はいかないようにした。
「障がい者って言われると納得できなかった。自分は足が悪いだけなのにと思って。友人は健常者がほとんどだったから、障がい者の人たちと会うことがあっても何を話せばいいか分からなかった。障がい者と接したことがなかったからでしょうね」
自分の中にある偏見を自覚し、それに苦しんでいた。
環境こそがバリアー
大学3年生になると、日本各地にある自立生活センターで研修を受ける機会があった。自立生活センターは障がいのある人たちが地域で暮らすために、障がい者自身が中心となってサポートする団体。子育てをしている先輩の姿や、ボウリングやダンスを楽しむ障がいのあるたくさんの人々と出会い、刺激を受けた。「『障がい者』という入り口から付き合いが始まったが、話してみると趣味があり個性があって、健常者と何ら変わらなかった」
「障がいがあっても普通の暮らしはできるんだ。周りの環境こそがバリアーではないだろうか」と実感し、自信がついた。
初めて聞く「女子会」
蔡さんは大学を卒業し、台北の障がい者関係の団体で働いた。夫との出会いは2011年。県の共生社会条例の制定に向け障がい当事者らが主導した署名運動に台湾から参加し、知り合い結婚した。障がい者だからと特別にやさしく接することもなく、けんかのときも率直に発言する。障がい者だから、女性だからと区別しないところにひかれ結婚を決めた。
2014年に沖縄に移住して気付いたのは男女の「格差」と「区別」だ。台湾の学校は、男女混合名簿があたり前で、そこに区別をする理由がない。日本の学校は男女別の名簿がほとんどで、学校行事の入場順は男子からと聞き驚いた。日本では小さい時から男は先、男女は分かれるという意識が刷り込まれているように感じる。
台湾では友達の男女がグループで旅行するのは珍しくない。「女子会」「女子旅」という言葉も日本に来て初めて聞いた。「台湾では女性だけ集まって飲んだり、旅行したりというのが珍しいから」
「個」より「性」の壁
台湾は共働きが多い。蔡さんの家庭は夫と家事を分け合っているが「日本にくると女性が家事を期待されているように感じる」と言う。保育所で使う道具の用意は、たいてい保育士から「お母さんお願いしますね」と声をかけられる。子どもを予防接種に連れていくと、居合わせるのは母親がほとんどと感じた
「お盆や正月で親戚中が集まると、自分の国では男だから座って女だから台所で働くという形ではなく、その中で年下の人たちが年上の人に対して男女関係なく買い物や食器の上げ下げをすることが多いですね」
家事も子育ても夫婦で分け合ってが“当たり前”の台湾の暮らしを知る蔡さん。日本社会には、さまざまな場面で個人よりも「性」で区別される「壁」があると感じている。
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