<金口木舌>眼鏡を一緒に探す人


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 「眼鏡、眼鏡…」。サザエさんの父・波平が部屋中を探し回り、鏡を見ると頭に眼鏡が載っているエピソードがある。笑えるのは若い証拠か

▼誰でも年齢と共に脳の機能が衰える。以前取材した認知症の講演会で、何を食べたか忘れるのは「加齢による物忘れ」、食事の経験そのものを忘れるのが「認知症」と、その違いを知った
▼認知症の人が店員を務めるイベント「注文をまちがえるゆいまーるな喫茶店」が宜野湾市など6市町村で開かれた。糸満市では認知症の4人が接客をしながら客と交流を深めた。会話が弾み、店全体が和やかな雰囲気に包まれた
▼団塊世代が75歳以上になる2025年には認知症の人が約700万人に達するという推計もある。人ごとではない。認知症に優しい地域づくりが急務だ
▼「ゆいまーるな喫茶店」の実行委員長の元麻美さん(43)は「認知症の人と身近に接することが当たり前になってほしい」と強調する。幼少から理解を深めることが重要だと考え、認知症の人が学校での読み聞かせに参加する新たな展開を模索している
▼面白いことを言うボケ役と追及するツッコミ役。どちらも欠かせない漫才のように、一緒に探し物をする人がいれば頭上の眼鏡の発見も早い。すべての人は社会の大切な一員だ。一人一人が認知症の良き理解者になれば、誰もが安心して暮らせる共生社会につながる。