香港のデモを見ていて、ある映画を思い出した。一昨年公開され話題となった韓国映画「タクシー運転手」だ。1980年の光州事件で、市民や若者らが民主化を求めて立ち上がる姿が香港と重なる
▼軍が市民に銃を向け、次々と若者が倒れる。地元メディアは「市民の暴動」などと当局の発表を流すばかり。映画は、弾圧の実態を世界に発信したドイツ人記者と彼をタクシーで運んだ運転手の実話だ
▼政府による報道統制はすさまじかった。光州に入る道は軍が規制した。その中をドイツ人記者は身分を隠して潜入し、事態を映像に収めた
▼沖縄も日本復帰前の米占領下では取材の自由が脅かされていた。写真家の嬉野京子さんは60年代、米軍車両の少女轢殺(れきさつ)現場を隠れて撮影した。伊江島では米軍に拘束されながらも、島民の助けを得て脱出、世界に沖縄の状況を伝えた
▼取材統制は過去の話だろうか。2005年、イラク戦争から帰還する米海兵隊の取材で、米軍は沖縄2紙を排除し「公平でバランスの取れた」とするメディアだけを選別して取材させた
▼今も状況は変わらない。米空軍は先月、空中給油訓練を沖縄2紙を除くメディアに限定公開した。政府は五輪開催にかこつけて基地周辺のドローン撮影を規制した。われわれの目や耳をふさごうとする動きが加速する。その先に待つのは暗く、息苦しい社会だろう。