<金口木舌>パントマイム


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 身ぶりや表情だけで表現するパントマイム。見る側はないものがあるかのように錯覚する。喜劇王チャプリンは数々の映画作品でパントマイムを披露し社会を風刺した

▼ないものをあるとしたのは20日の安倍晋三首相の施政方針演説。地方創生の好事例として島根県に移住した農家の男性を実名で紹介したが、男性は年末に県外へ転出していた
▼昨年の首相施政方針も実態と違った。2019年度の国の税収は過去最高62兆円超と強調したが、実際は予測を2兆円下回る60兆1800億円となる見込み。3年ぶりの税収減の見通しだ
▼あるにもかかわらず、ないとしたのは桜を見る会の名簿。野党が出席者名簿を資料要求した日に政府は廃棄した。答弁時には残っていた電子データのバックアップも「公文書ではない」と開き直った
▼例年盛り込まれていた米軍普天間飛行場返還や辺野古移設の文言も首相施政方針から消えた。現在の政府見積もりで移設費用は9300億円、県試算で2・5兆円。避けて通れる議論ではないが、権力はすり替えが得意であることを忘れてはいけない
▼チャプリンの代表作「独裁者」は1940年に制作された。ドイツ政権を掌握したヒトラーを風刺し、終盤でチャプリンは「独裁者はうそをつく」とメッセージを放つ。喜劇王が現代の日本を演じると、どのような結末になっただろうか。