<金口木舌>「遅咲きのルーキー」の体験


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 「遅咲きのルーキー」と呼ばれる将棋の今泉健司四段は戦後最年長の41歳で棋士になった。2度もプロ棋士養成機関の奨励会三段リーグに在籍したが、規定の成績に届かず退会した。それでも夢を諦めずプロ編入試験に挑んだ

▼一昨年のNHK杯戦では、14歳でプロ入りした最年少棋士藤井聡太七段と対局、下馬評を覆して逆転勝ちした。31日の棋王戦予選でも顔を合わせ今度は敗れた
▼今泉四段はプロになる前、介護士として施設で働いていた。認知症を患う高齢者が多く、予測できない言動に戸惑った。元気よく声を掛けても嫌がられる。「家に帰る」と窓から逃げようとする人に手を焼いた
▼振り回されたが否定するのはタブー。様子を見守り、飽きた頃を見計らい居室まで促す。高齢者の体調は刻一刻と変わる。予期せぬ行動があれば必死に考え、辛抱強く対応した。体験は著書「介護士からプロ棋士へ」に詳しい
▼介護職員の人材不足が深刻だ。団塊の世代が75歳以上になる2025年には約34万人不足すると見込まれている。待遇改善は待ったなしだ。重労働、低賃金といったイメージを払拭(ふっしょく)しなければならない。実際はやりがいも多いという
▼今泉四段は気持ちを調節する力、忍耐力を身に付けた。「認知症の方々との関わりは、自分の態度を映す鏡。精神的にも人間的にも大きく成長した」。今泉四段の言葉だ。