<金口木舌>背中支えるたくさんの手


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 小学3年生の頃、父親の他界をきっかけに虚無感にさいなまれる。4年生から不登校になり中学卒業後も引きこもっていた。人とのつながりを求め高校に入学したのは21歳。北部農林高定時制4年の古波あやかさん(24)の体験だ

▼昨秋、うるま市で開かれた「定時制・通信制生徒生活体験発表大会」に出場した。高校に入学し、年下の同級生に引け目を感じた。教師の勧めで過去を作文につづり、自分を肯定できるようになった。古波さんは3月1日、卒業する
▼県内では1日に県立高校で一斉に卒業式が行われる。気掛かりなのは新型コロナウイルスの感染拡大だ。安倍晋三首相は全国の小中高校などに3月2日から春休みに入るまで臨時休校を求めた
▼要請を受け県立高校や多くの公立小中学校が2日以降、次々と臨時休校に入る。県立高校の卒業式は、卒業生と保護者に限定した方式や式典後の花道の中止などが検討されている
▼歌人の俵万智さんには教員時代の経験を詠んだ歌がある。「さんがつのさんさんさびしき陽をあつめ卒業してゆく生徒の背中」。別れの寂しさとともに、温かな励ましを受けて羽ばたく生徒が目に浮かぶ
▼古波さんは今春、農業の教員を目指し琉球大の農学部に入学する。学舎を巣立つ生徒たちの進路は多岐にわたる。壁にぶつかることもあろうが、たくさんの手が背中を支えている。