<金口木舌>「出雲の阿国」の舞台


社会
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 京都・四条大橋のたもとに一人の女性の像が立っている。刀を肩に担ぎ扇子を手にだて男風の衣装に身を包む。歌舞伎の元祖といわれる出雲の阿国(おくに)だ

▼関ケ原の戦い後のすさんだ世に「かぶき踊り」で庶民を大いににぎわせた。それまでなかった専用舞台を北野天満宮の境内に造って踊ったという
▼歌舞伎の芸を楽しめる舞台は今、ひっそりしている。感染症の影響で歌舞伎座だけでなく、小劇場やライブハウス・クラブも休館、自粛の要請に応じてきた。楽しみにしている演劇やライブが見られず、再開を待ちわびる人も多い
▼芸を披露する側もまた舞台に立てずに苦境におかれている。表舞台に立つ演者だけでなく、舞台を支える裏方も仕事がなく直撃を受けている。そこで民間で支援の輪が広がる中、政府の自粛要請に応じた中止や休演への対応として公的支援を求める動きが出ている
▼これに対して「ライブハウスは助けなくていい」「芸能支援はしなくていい」といった声が一部で出ている。文化・芸術をぜいたく品のように位置づける向きは日本には根強いのか
▼ドイツのグリュッタース文化相は、コロナ禍での文化施設や芸術家への支援表明の中で「アーティストは生命維持に必要だ」と述べた。空気や水と同じように文化・芸術は心の栄養で、なくてはならないものだということに改めて気付かされる。