<金口木舌>桃太郎の後日談


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 「鬼退治」をした桃太郎。後日談ではあまり幸せではなかったらしい。生き残った鬼から命を狙われ、家来の猿とキジも犠牲になったと芥川龍之介は「桃太郎」で書いていた

▼芥川版「桃太郎」では「鬼退治」の動機は、おじいさんやおばあさんのように山や川へ仕事に出るのが嫌だったからとされる。わんぱく者の桃太郎の扱いに困っていた老夫婦も、これ幸いと要求通りに陣羽織などを用意して送り出す
▼昔話を思い返すと、なぜ桃太郎が「鬼退治」を思い立ったのか、鬼の脅威とは何だったのか、判然としない。福沢諭吉は「ひゞのをしへ」で、桃太郎が鬼ケ島に渡ったのは鬼の宝を取るためだったと説く。悪行があっても財宝をとるのは「卑劣千万」だと子に教えた
▼古来、地獄絵図や説話でも多く登場してきた。御伽草子「酒吞童子」では「内部」(人間社会)から「外部」(異界)の排除の対象として描かれる鬼だが、逆に鬼の側から見るとどう映っていただろう
▼鬼になった妹を人間に戻そうと鬼と戦う少年を描いた漫画「鬼滅の刃」が空前の人気で、アニメも大ヒットしている。鬼も元は人間で、鬼になった複雑な事情も描かれる。そのこともファンの心を捉えた
▼一方的に鬼が悪いというステレオタイプでないのもいい。内と外を区別して「鬼」を作り出し、時には攻撃まで仕掛けるやり方は今でも見られる。