2013年1月のオバマ大統領の2期目の就任式。取材で足を運んだワシントンの連邦議会前に黒人や白人らさまざまな人種が詰め掛けていた
▼「全ての人間は生まれながらにして平等だ」。多様性の大切さを訴えるオバマ大統領の声が響くと、拍手と歓声に沸いた。ワシントンは人種のるつぼと呼ばれる米国の縮図だった
▼あれから7年。トランプ政権に変わった米国が人種差別問題に揺れている。きっかけは5月25日にミネソタ州で発生した、白人警官によるジョージ・フロイドさん暴行致死事件。黒人が警官に撃たれたり、暴行されたりする事例は後を絶たず、緊張が高まっていた中で悲劇は起きた
▼フロイドさんの事件後、黒人差別に反対する抗議活動が全米に広がった。「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」との言葉とともに、奴隷制の象徴を否定しようという動きが広がる
▼南北戦争の激戦地だったバージニア州リッチモンドのリー将軍像。数々の激戦を制した南軍の英雄だが、南軍は奴隷制を擁護していたため、同州のノーサム知事は「誤った歴史を教える必要はない」と撤去する方針を示す
▼米メディアの専門家らは「南北戦争以来の分裂の危機だ」と指摘する。批判の声に耳を傾けず敵か味方かの二項対立をあおるトランプ大統領。多様性を認めない「アメリカ・ファースト」は幻想にすぎない。