先日、NHKの衛星放送で1964年の東京五輪の記録映画を放映していた。しばらく画面を見ていて、ようやく気付いた。新型コロナウイルスの感染拡大がなければ今回の東京五輪の開会式を迎えるはずだった
▼映画の総監督は「ビルマの竪琴」や「野火」などの名作を生んだ市川崑さん。脚本に詩人の谷川俊太郎さんが参加している。男子マラソンの円谷幸吉選手の力走など印象深い場面が続き、じっくり見入った
▼「芸術か記録か」という論争を呼んだ映画は「人類は4年ごとに夢をみる。この創られた平和を夢で終わらせていいのであろうか」という字幕で終わる。この問い掛けから目をそらしたくなる
▼東京五輪以降も戦争や地域紛争が続いた。政治とオリンピックの関係も厳しく問われた。テロで選手が犠牲となったこともある。平和を創る難しさと、そのもろさを私たちは実感してきた
▼映画の冒頭、沖縄の聖火リレーが出てくる。復帰運動の高まりの中で迎えた聖火が象徴する「本土との一体化」の願いはゆがめられていく。復帰後も基地は残り、平和と夢のともしびは遠ざかった
▼来年に延びた五輪に向け、大会組織委員会は「一年後へ。一歩進む。+1(プラスワン)」という映像メッセージを発した。56年前の問い掛けと向き合い、平和を創る五輪の実現に向けてしっかりと歩む1年にしたい。