<金口木舌>「トビウオ」


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 「彗星(すいせい)」に「雷神」、「バード」に「翼」。何かの愛称だが、これで分かればよほど詳しい。「フェアリー」「火の鳥」で気が付く人もいよう。「侍」「なでしこ」だとヒントの出し過ぎか

▼スポーツの日本代表の愛称である。冒頭から男子ハンドボール、空手、バドミントンに飛び込み、新体操と女子バレーボール。最後の二つはお分かりだろうが、野球と女子サッカー
▼「トビウオ」が冠せられたのは競泳代表だ。故古橋広之進さんの異名にちなむ。反日感情のまだ色濃い戦後の全米選手権で世界新を連発し、当地で名付けられた「フジヤマのトビウオ」だ。強さがうかがえる
▼1932、36年の五輪で金9個を獲得した「水泳大国ニッポン」が戦後初めて参加を認められた五輪は52年のヘルシンキである。古橋さんらが満を持して出場したが日本は金メダルなしに終わった
▼その大会で複数の日系人が活躍した。100メートル背泳ぎは羽地出身の両親を持つヨシノブ・オヤカワさんが頂点に。活躍は今ではほとんど知られていない。オンラインでインタビューし、連載「沖縄五輪秘話」で紹介した
▼競泳で日本人の体格は不利とされる。練習漬けの毎日で頭角を現したオヤカワさんはルーツの地、沖縄からの金メダリスト誕生に期待する。偉業を成し遂げた県系人の語りに、まだ果たし得ぬ夢の実現がぐっと近くなった気がした。