<金口木舌>ケンゾーと百貨店


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 楽園を思わせる華やかな色彩と大胆な柄―。4日に死去した服飾デザイナー・高田賢三さんのブランド「KENZO(ケンゾー)」は1970年代から世界のファッション界を先導した。「木綿の詩人」と称される高田さん。デザインした服はひときわ個性が光っていた

▼日本の80年代はファッションブランドの全盛期。店員のアドバイスを受け試着しながら予算の範囲内で服を選ぶ楽しみがあった。洗練された店の雰囲気そのものが心躍る場所だった
▼新型コロナウイルスの感染拡大に伴う来店客の減少を受け、H&MやGAPなど欧米のカジュアル衣料品大手が相次いで店舗削減計画を発表。店舗の縮小で経費を削減する一方、ネット通販の利便性を高めて生き残りを目指す
▼コロナ禍は消費行動を大きく変えた。出歩かなくて済むネット通販は感染リスクの低減にもなる。「新しい生活様式」のひとつだろうが、相対売りの縮小に寂しさを感じる
▼売り手と買い手の顔が見えるのが相対売りの魅力だ。服飾販売に力を入れている百貨店各社は、新型コロナウイルス感染拡大で苦境に立たされている。そごう・西武の4店舗が9月末に閉店した
▼服飾販売の産業構造の変化は避けがたいだろうが、非日常の空間でゆっくりと品定めする豊かな時間を手放したくない。当たり前と思っていた生活のありがたみに気付く。