<金口木舌>失われつつある琉球漆器


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 老舗漆器店「琉球漆器」が3月31日で閉店した。営業最終日を迎えた本社真玉橋店の店内は活気があった。閉店時間が過ぎても客足は途切れない。沿道には駐車場の空きを待つ車が並んだ

▼新型コロナウイルス拡大の影響で業績が悪化し、創業130年以上の歴史に幕を下ろした。うるま市から訪れた女性は「沖縄の心を現す工芸品が失われつつある。寂しい」と惜しんだ
▼琉球漆器は約600年の伝統を誇り、琉球王国時代には交易品として重用された。外観に朱漆を使った首里城正殿は「巨大な漆工芸品」と称される。漆職人が一人前になるまで時間がかかる。かつて沈金の第一人者が「満足のいく丸を描くのに10年かかった」と語っていた
▼1980年代ごろ、漆器を常時販売する会社は6社ほどあったが、近年は1、2社にまで減った。漆器店の廃業は伝統工芸の継承にも影を落とす
▼琉球漆器と言えば、高価で手入れが面倒という印象もある。しかし実際は違う。数年前に購入した汁わんは手触りが良く、使うほどにつやが増す。使用後は食器用洗剤で洗い、一拭きすれば済む。長持ちする分、頻繁に買い換えなくていい
▼朱漆や黒漆の生地に、仏桑花やユウナなど沖縄らしい意匠を施した琉球漆器。先人たちが受け継いできた工芸品は琉球・沖縄の宝物だ。手わざが失われたら、取り戻すのは容易ではない。