<金口木舌>五輪が覆い隠したもの


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 「夜遅くまでテレビを見ながら応援した」「感動した」。2004年8月26日、首相官邸が発信するメールマガジンで当時の小泉純一郎首相が報告した。首相が夏休みを取っている間、アテネ五輪で活躍した日本選手らをたたえた

▼沖縄では同13日、米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落していた。小泉氏はメールの後段で「アメリカに対し、事故原因の調査と再発防止に全力を尽くすよう求めていきたい」と記した。当時の稲嶺恵一知事は事故直後に面談を申し入れたが、小泉氏が応じたのは25日だった
▼「首相はメダリストに祝福の電話をする前に米大統領に抗議すべきだった」「日本は米国の属国だ」。読者から本紙に寄せられた声だ
▼事故は日米関係のいびつさをあらわにしたが、全国紙の大々的な五輪報道もあり、国民の関心は高まらなかった。事故から17年、普天間飛行場の返還合意からは25年。今もヘリは市民の頭上を飛んでいる
▼感染拡大の中で強行された東京五輪が閉幕した。菅義偉首相は「開催国としての責任を果たせた」と述べた。だが1日の感染者数は連日、全国で1万人を超えている。3兆円ともいわれる膨大な開催経費はどのように清算されるのか
▼五輪が覆い隠したものは何だったのか。これから先、国民にどれだけの負担がのしかかるのか。沖国大の事故現場に残る焦げたアカギを見て考える。