<金口木舌>空手の多様性と奥深さに注目を


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 韓国でテコンドーの選手とスパーリングをしたことがある。蹴り技が主体だが、突きもある。空手と同じだと思い、相手の蹴り脚をつかんで下段蹴りで転倒させた

▼勝ったと思ったがその時点で反則負けになった。下段蹴りは禁止されているとのこと。ソウル五輪金メダリストの師範にこっぴどく叱られ、体育館を何周も走らされた
▼テコンドーが五輪競技であり続ける理由はルールの明確さ。跳び蹴りやかかと落としなどアクション映画で見掛けるような派手な技も魅力の一つだ
▼東京五輪で初めて採用され、喜友名諒選手が金メダルに輝いた「空手」。会場をのみ込む気迫と寸分の狂いもない技は他の追随を許さず、歴史に名を刻んだ
▼沖縄は空手の発祥地だが、採点やルールのある五輪の空手だけが空手ではない。グスク時代の戦闘術を発展させた流派に加え、中国の南派拳法をルーツとする流派もあるなど沖縄伝統空手は多様だ。五輪に採用された全日本空手道連盟系の空手は、沖縄の町道場で達人たちが研鑽に励む空手とは趣が異なる
▼不測の事態を恐れずに相手の攻撃を受け、滑らかな動きから瞬時に急所を突く沖縄空手の型は五輪競技の形のような派手さはない。だが、人体構造や間合いが研究され尽くされており、美しさすら感じる。先人たちが守ってきた沖縄伝統空手の奥深さはもっと注目されてもいい。