<金口木舌>人間国宝の心映す遺産


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 県立美術館博物館で開催中の企画展「首里城美術工芸品の現状とこれから」は、琉球王国時代の多彩で洗練された美術工芸品に出合える。精緻な技法に先達の美意識の高さを垣間見る

▼王国時代の美術工芸品といえば、首里の織物が代表格だろう。首里に暮らす士族らが愛用していた。芭蕉、苧麻などの素材が多彩。織りの技法も種類が多く、洗練されている。琉球併合(「琉球処分」)で外部に流出、沖縄戦で焼失するなど琉球・沖縄の苦難の歩みと無縁ではない
▼戦後、首里の織物を復興させたのが人間国宝の宮平初子さんだ。戦争中も柄の教本を離さず、戦後は落下傘の綱の絹糸を解き、マラリアの薬を黄の染料にして織を続けた
▼那覇伝統織物協同組合の設立に奔走。後継者の育成に情熱を注いだ。「しくちぇー、しくちがるならーする」(仕事は仕事が教える)という黄金言葉を残した
▼この道を黙々と歩む生きざまをしのばせる。宮平さんが帰らぬ人となった。享年99。宮平さんの情熱や功績は数多くの衣裳とともに後進に引き継がれるだろう。