「板子一枚下は地獄」。命を奪いかねない海を職場とする漁師や船乗りの仕事の過酷さを例えた言葉だ
▼以前勤務していた宮古支局で、天候が荒れて船が欠航した時、運航会社の担当者が観光客に対して冒頭の言葉を使って危険性を説明したことを覚えている
▼技術の進歩によって、航海の安全性は昔に比べ飛躍的に向上した。それでも自然への恐れを忘れず、まず危険に直面しないことを最優先するという、海に生きる人の知恵と気概を感じた
▼海への畏怖はなかったのだろうか。北海道・知床で子どもを含む26人が乗った観光船が遭難した事故だ。いまだ詳細な原因は明らかになっていないが、波浪、強風の注意報が出され、海況がさらに悪化すると見込まれる中での出航だった
▼運航会社の社長は会見で「今となれば事故を起こしてしまって、判断は間違っていた」と後悔をにじませた。安全第一を油断せず徹底して実行することは難しいかもしれないが、何よりも大事な命を守るために、事業者は危険に対して常に「臆病」であってほしい。