<金口木舌>壕が伝えるもの


社会
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 巨大な地下壕に足を踏み入れると、その規模に圧倒された

▼9月、長野県の松代大本営地下壕を平和ガイドなどと訪ねた。天皇を中心とする「国体」を守るため、1945年8月の終戦間際まで掘削が続けられた
▼実際に掘ったのは朝鮮半島出身者である。信濃毎日新聞は4年前、朝鮮人労働者の名簿の存在を報道。現地で遺族から丁寧に記憶を聞き取った。戦争の体制の底辺で虐げられた悲しみや苦しみに向き合い、繰り返さない覚悟が見える
▼過去に起こした迫害で得た利益を今の時代が享受していると自覚する「連累」。豪の歴史学者テッサ・モーリス=スズキはそう定義づけた。「国体護持」の捨て石となった沖縄戦では大勢の住民が犠牲になり、戦後は米統治下となって米軍基地の拡大や事件事故に苦しんだ沖縄。今なお過重な基地負担がある
▼沖縄に犠牲を強いた「差別や排除の構造」は今も残る。それどころかネット上ではその構造が強化され、歴史は忘却されつつある。不正義の構造を断ち切る責任―連累の大切さを壕は伝える。