<金口木舌>隔世の感


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 1990年代まで、県内公共交通の主役と言えば路線バス。大きな難題を抱えていた。毎年のように春闘の労使交渉がもつれるのである。バス従業員がストライキに入れば影響は甚大だ

▼ストとなれば高齢者から子どもまで交通手段を失う。社会機能のマヒは避けられない。スト権行使は労組幹部にとって重い決断。利用者の理解をどう得るかに腐心した。始発直前にスト回避という際どい事態もあった
▼岸田文雄首相が経済3団体の新年祝賀会で賃上げを求めたと聞き、30年近く前の記憶が蘇(よみがえ)った。「インフレ率を超える賃上げを」と首相は言う。ストを知る身には隔世の感を拭えない
▼政府が後ろ盾の春闘とは、これほど頼もしい援護もないが、一方で防衛費増に伴う増税を臆面もなく持ち出す。この二律背反、同じ人の発言か
▼首相も自認の通り富裕層が富めば、おこぼれで貧困層も富むという富の再分配はなかった。非正規雇用率も高まり、県内は最高の約45%とも。経済政策が成功したとは思っていまい。賃上げ要求で済む話とは言えない。