<金口木舌>きくさんが託した希望


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 記事が載った日にはいつも朝一番に電話をくれた。「思いを書いてくれてありがとうね」。電話口から聞こえる朗らかで力強いその声に毎回、励まされた

▼元白梅学徒の中山きくさんが死去した。16歳で体験した戦場のことを語り続け、コロナ前は1日に数回の講演をこなすこともあった。それだけではない。教科書検定問題や辺野古の新基地建設に反対する県民大会などでも先頭に立った
▼「語り継がないと同じ過ちを犯してしまう」。戦争につながる動きに危機感を示した。一方で自らの体験を聞く次の世代に希望も持っていた。「若者たちは話せば分かる」。きくさんがしたためた文章には何度かこの一文が出てくる
▼沖縄戦の語り部が次々にこの世を去っている。つらい記憶を思い出し、多くの人に伝えてきた語り部たちを支えたのは、未来への希望だったのかもしれない
▼まだまだ私たちを導いてほしかったという思いもある。でも私たちには体験者が残したたくさんの言葉がある。希望を託された者として何をすべきか。考え、行動したい。