<金口木舌>「香り」で記憶を呼び起こす


この記事を書いた人 琉球新報社

 幼い頃のシーミー(清明)の思い出といえば、墓の周りで遊んだ時の新緑の香りだったり、ブルーシートを広げた時の匂いだったり。家族・親族で囲むごちそうだけでなく、そんなことが原風景にある

▼「香り」で昔の記憶がよみがえる心理現象を「プルースト効果」と呼ぶ。フランスの小説家、マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸した時の香りで幼少期の記憶を思い出した描写から、作者の名前にちなんで名付けられた
▼ヤンキー・スタジアムのあるニューヨーク、ブロンクスの高齢者施設1階の売店にある装置が設置された。グラブや芝生、ポップコーンなどの絵の下にあるボタンを押すと、その香りがするのだ
▼ブロンクス育ちのお年寄りにとって、野球場は思い出の詰まった場所。年とともに失う記憶を香りで呼び起こすことで、認知症や情緒の安定に効果が期待されるという。「香りが思い出のドアをたたいてくれる」と施設の担当者は説明する
▼沖縄にも独特の香りがある。風に運ばれる潮の香り、月桃や夜香木の香り、もわっとした降り始めの雨の香り。もちろん、食欲をそそる天ぷらを揚げる香りも
▼20日は二十四節気の一つ「穀雨」。例年、ゴールデンウイークが明けると梅雨が始まる。折々の季節の香りを楽しみながら、古里の姿は刻まれていく。