<金口木舌>先日、那覇市内のステーキ料理店で・・・


この記事を書いた人 琉球新報社

 先日、那覇市内のステーキ料理店で食事をした際、店員から愉快な話を聞いた。仕事の合間、店内で食べる賄い料理の人気メニューは肉料理にあらず、沖縄家庭料理の定番チャンプルーだという

▼「おいしいんですよ。いろんな食材が入っていて。あの味はなかなか出せません」。鉄板で肉や野菜を焼きながら、店員は楽しげに話す。チャンプルーを作るのは年配の店員らしい。文字通り、ベテランの味だ
▼店員が食べているチャンプルーはどんな味だろうと想像する。食べてみたいというのは無理な注文に違いないが、西洋料理店の厨房(ちゅうぼう)で沖縄の家庭料理の味を守っていることがうれしくなる
▼料理研究家の新島正子さんは生前、チャンプルーは先人の知恵が詰まった立派な伝統料理だと語っておられた。おいしく作るのはなかなか難しい。野菜や豆腐を鍋に入れるタイミングに熟練の技があるという
▼食通男爵として知られる尚順の随筆「豆腐の礼讃」には、天日干しで発酵させた豆腐「イタミ六十(ルクジュウ)」を使ったチャンプルーが登場する。「世界第一と云ってはずかしからぬ珍味である」と大変なたたえようだ
▼男爵をうならせるのは無理だとしても、家で食べるチャンプルーにひと工夫加えるのも沖縄食文化の継承・発展につながるはずだ。「いつも同じ味か」と愚痴をこぼす前に、たまにはフライパンを振るってみよう。