<金口木舌>先日、本欄でサイパン島など旧南洋群島の島々でホウオウボクのこ・・・


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 先日、本欄でサイパン島など旧南洋群島の島々でホウオウボクのことを南洋桜と呼んでいたと記したところ、読者から疑問の声が寄せられた。南洋桜は別の植物だというのである

▼元タクシー運転手は、トックリキワタのことを南洋桜だと観光客に紹介してきたという。神戸市の女性は沖縄で暮らしていたころ、テイキンザクラのことを南洋桜と呼んだとの話だ
▼どちらが正しいのだろうか。東南植物楽園の照屋雄久さんにお聞きしたところ、南洋桜という名の植物は複数あり「どれも愛称。間違いとはいえない」とのご返事だった。時代によって植物の呼び名が変わることもあるそうだ
▼南洋群島帰還者会の事務局長で、テニアンの収容所で生まれたという安里嗣淳さんは「南洋帰りにとって、南洋桜とはホウオウボク」と話す。日本の委任統治領だった時代の南洋の島々で生きた人々の記憶に残る植物名なのだろう
▼当方にもそんな花がある。小学校に入学した1972年、学校の授業で学んだ三色すみれだ。校庭にも咲いていたので、よく覚えている。この名がパンジーの別称だと知ったのは大人になってのこと
▼三色すみれは日本復帰という世替わりの思い出を彩る花のように感じている。南洋帰りの人々の心の中で南洋桜は咲き続けていよう。それは激しい戦争で肉親を失った記憶と結び付く悲しい花でもある。