<金口木舌>儀間比呂志さんのやんばる


この記事を書いた人 琉球新報社

 極太の線に、すべてをのみ込むような黒。小学生の頃に見て「怖い」と感じた。版画家・絵本作家の儀間比呂志さんの沖縄戦を描いた作品だ。海軍に召集され、戦後は沖縄戦体験者を取材して制作した

▼昨年亡くなった儀間さんの追悼展「儀間比呂志の世界」が県立博物館・美術館で開催中だ。人気バンドMONGOL800の活動展も同館で開かれ、彼らを描いた作品にもお目にかかれる
▼名護博物館では「儀間比呂志のやんばる」が始まった。14日まで。名護市での絵本づくり講座を機に1995年、2週間ほどやんばるを回った。作品「ヤンバルクイナ」「ノグチゲラ」「山原のアンマー」などの原風景は色彩豊かだ
▼儀間さんは国頭村奥で児童による標語を見掛け、くぎ付けになった。「カメさんにも、かぞくがあります」。動物も人間も同じ生命と尊び、悲しみを共有する子どもたちの心に共感した。2年後、絵本「やんばるのカメさん」が生まれた
▼「人間は快適な生活を手に入れるため、自然を破壊してやみません。基地はいつかなくなるが、自然は二度と回復しません」。出版記念講演での儀間さんの言葉だ
▼戦争は出口の見えない闇。沖縄戦は多くの命、生活をのみ込んだ。刻まれた痛みは戦後73年を経ても沖縄を苦しめる。この世界から色彩を奪ってはならぬ。作品から儀間さんは今も語り掛ける。