<金口木舌>この世界で、すずさんの色は

 広島県呉市を訪ねたのは今から1年ほど前。造船と軍港として栄えた街並みが印象的だった。昨年7月、西日本豪雨による土砂災害で甚大な被害を受けた。半年が過ぎ、呉は復興への歩みを進める

▼第2次大戦下の呉を舞台としたアニメ映画「この世界の片隅に」が16日、大宜味村旧塩屋小学校で上映された。主人公すずの声を務めた女優のんさん(25)らのトークもあり、村民らはその世界に触れた
▼すずは結婚を機に広島市から呉に移り住んだ。作品は当時の日常生活が軍国主義にむしばまれ、平穏が奪われていく過程を描く。こうの史代さんの漫画が原作
▼すずが趣味として呉の街をスケッチしていると、憲兵からスパイと疑われ詰問される場面がある。「軍機を語るな」の標語で知られるように、重い空気が日本全体を覆っていた
▼心理学者フランク・パヴロフ著「茶色の朝」(大月書店)でも、全体主義がもたらす恐怖を伝える。全てを茶色に染めようとする世界は異なる色の存在を許さず、白いペットを飼うだけで取り締まりの対象に。考えることを放棄するなと警鐘を鳴らす
▼のんさんは「怖いから」と戦争を知ることを避けていた。上映会で「すずに密着し、当時の生活に共感できた。その時代を過去ではないと思えるようになった」と率直に明かした。考え続けよう。この世界から多様な色を奪われないために。



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