速度を80キロ以下に落とすと爆発する。犯人の脅迫を受け、走る東京発博多行きの新幹線。止まるはずの駅を通過しパニックに陥る乗客―。1975年公開の映画「新幹線大爆破」の一幕だ
▼こちらの乗客は事実を知って恐怖はいかばかりだったろう。一昨年、JR西日本の新幹線のぞみが、台車に亀裂を生じたまま3時間以上も走行し続けた。亀裂は破断寸前だった
▼始発の博多駅を出た直後から予兆はあった。乗客の連絡を受けて乗務員も車内の異臭と異常音に気づく。現場の保守担当と運行を管理する指令は、運行ありきで危険性の判断を「相互に依存していた」とされる
▼国の運輸安全委員会が先月、調査報告書を公表した。「支障はあるか」と尋ねる指令員に、保守担当は「そこまでいかないと思うが、見ていないので現象が分からない」と答えた。指令員は「そこまでいかない」を「運転に支障がない」と受け止め、運行を継続する
▼報告書は、異常事態を正常と判断しようとする「正常性バイアス」という心理的傾向の可能性を指摘した。「支障がないだろう、支障ないとありがたい」と自分の信念を裏付ける情報に意識が向く「確証バイアス」の可能性にも触れた
▼米軍機が規定時間外の夜間飛行を続けたり、地盤の問題を隠したまま新基地の工事を続けたり…。国の大本からして正常性バイアスに陥っていないか。