<金口木舌>ライブの戯曲

 ある街の警察署長が犬をののしっている。それが将軍の犬と知ると一転、態度を変えて犬にこびだす。ロシアの作家チェーホフが「カメレオン」で描いた。今も思い当たる人がいる

▼百数十年前の作品だが、現在に通じる普遍的なテーマを感じる。自身も多くの戯曲を書いた故井上ひさしさんはチェーホフについて「結局のところ、人間は生きたがっている、ただそれだけのことなのだという真実を発見した」と評した
▼演劇は生身の役者が作家の台本を基に舞台の上で表現する。日によって観客の反応も違う。同じ演目で同じ配役でも、全く同じ舞台というのは二つとないのかもしれない
▼井上さんが構想して完成を見ずに逝った、沖縄戦を描いた舞台「木の上の軍隊」が6月26日に沖縄で初めて上演される。広島、長崎、沖縄の「戦後“命”の3部作」の一つで、役者たちも沖縄公演を心待ちにしている
▼井上さんの三女で劇団こまつ座を率いる井上麻矢さんによると、ひさしさんは「戦争で日常を奪われた一人一人の物語を書きたい」と話していたという。麻矢さんは「今こそ『木の上の軍隊』を上演するべき時が来たのだろう」と今の時代に沖縄で公演する意味をかみしめる
▼抑圧され、押し付けられ、その上無視され、それでもまだ対話を求め続ける。本土はどう受け止めるのか。ひさしさんもそれを天上から見ている。



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