<金口木舌>過度な「指導」はNG


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 短歌は31文字で心の機微を表す。研ぎ澄まされた言葉が想像力をかきたてる。「harassとは猟犬をけしかける声 その鹿がつかれはてて死ぬまで」。第29回歌壇賞を受賞した川野芽生さんが詠んだ一首だ

▼ハラスメントの動詞形「harass」は、「しつこく悩ませる」という意味。猟犬をけしかける声が語源という説があるようだ。ハラスメントを受けて追い込まれた被害者と鹿が重なり、背筋が寒くなった
▼役職や人間関係などで立場の上の人が暴言、侮辱、過度な要求を押し付ける行為がパワーハラスメントだ。厚生労働省の調査では企業・団体で働くおよそ3人に1人が受けたことがあると答えた。人ごとではない
▼パワハラの防止を企業に義務付ける女性活躍・ハラスメント規制法が成立した。厚労省はパワハラの定義や防止策について今後指針を定める。法の成立は評価できるが「指導との境界が曖昧」という企業側の主張に沿って行為そのものの禁止は見送られた
▼4年前、大手広告代理店に勤めていた女性が長時間労働の末、自ら命を絶った。女性はSNSに「休日返上で作った資料をボロくそに言われた。もう体も心もズタズタだ」と発していた
▼パワハラは心身をむしばむ。「指導」の名の下に、行き過ぎた言動をすることは許されない。想像してみれば分かる。罵声を浴びる人の心の傷が。