<金口木舌>要約筆記というコミュニケーションツール


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 首相官邸での官房長官会見は平日午前と午後の2度開かれる。会見中、長官や記者の声の背後で「カチャカチャ」と音がしている。記者がタイプする音だ

▼スポークスマンの発言を報道部署間でいち早く共有しニュースにするためで、テキストを取るから「トリテキ」とも呼ばれる。同じような仕組みで討議を文字にする会議システムがある
▼パソコンによる要約筆記という聴力の支援法だ。「初めての感情がこみ上げた」。今帰仁村の酒井鋭二さん(69)はこのシステムを初利用した時をそう振り返る
▼難聴があるが、ほぼ同時に発言を理解し一緒に考えられた。すると今度は自分の考えを即座に表したいという衝動が起こった。湧き上がったのは自己肯定感だった。手書きの要約筆記もある
▼沖縄市社会福祉協議会の要約筆記者養成講座が今月から始まる。市社協が20年ほど前から開講している。市内の筆記者は現在40人程度。難聴者は受診支援などを無料で依頼できる。筆記者の活動には報酬が支払われるが人数は十分ではない
▼貴重な機会である。社協は市外からの受講も歓迎する。要約筆記を知らない難聴者が多いのも課題だ。講師を務める酒井さんは「要約筆記は中途失聴者らのアイデンティティーに関わる大切な手段」と訴える。補聴器や手話と併せ、意思疎通の方法が充実すればより暮らしやすい社会になる。