「アンビグラム」をご存じだろうか。文字を違う角度から読むと、別の文字が浮かび上がる文字アートだ。映画「天使と悪魔」でも登場した
▼「香港」を逆さにすると「平和」と読めるアンビグラムが話題になっている。香港では、逃亡犯条例の改正に抗議する市民らがデモを行い混乱が続く。制作した野村一晟さんは「早く民主的に解決してほしいという願いを込めた」(ウィズニュース)という
▼独特のフォント(文字のデザイン)で描き、時にはもともとの文字と正反対の意味を込めることもできる。アートの力で状況を何とか好転させたい、そんな思いが伝わってくる
▼アンビグラムを知り、子どもの頃に遊んだ折り紙を思い出した。ヨットのセールの先を目をつぶって指でつまみ、再び目を開けるとへさきに変わっている。トリックの一種だが、物事は一点だけに固執せず多角的に見るべきだと教えてくれる
▼沖縄への米軍基地集中の必要性が語られるとき、しばしば沖縄を中心にした地図を掲げて「地理的優位性」が強調されてきた。だが、フィリピン駐留の米軍内ではフィリピンを中心とする地図を使って存在意義が語られたという
▼立ち位置が変わると価値観も変わる典型例だろう。当たり前と思っていることでも、アンビグラムのように角度を変えて眺めてみると、別のメッセージが見えてくるかもしれない。