<社説>性別変更要件「違憲」 特例法の全面見直し急げ


<社説>性別変更要件「違憲」 特例法の全面見直し急げ
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 重い違憲判断が示された。性的少数者の人権を守る一歩としなければならない。

 心と体の性が一致しない性同一性障害のある人が性別を変更する際、生殖能力をなくす手術を事実上の要件とする性同一性障害特例法の規定が憲法に反しているかが争われた家事審判で、最高裁大法廷は25日、要件を違憲とする決定を出した。
 特例法に関する最高裁の違憲判断は初めてである。最高裁が2019年に合憲とした結論を、社会情勢の変化を踏まえ、変更した。全裁判官15人の一致した結論だ。
 性別変更の手術要件を巡る家事審判では今月11日、静岡家裁浜松支部が違憲判断を示している。今回の最高裁判断を含め、性自認に基づく生き方を尊重する方向に歩み出したと言えよう。これらの判断を受け止め、政府、国会は特例法が定める性別変更要件の全面見直しを急ぐべきだ。
 トランスジェンダーや医療関係者の要請に基づいて03年に議員立法で成立し、翌年施行された特例法は、自認する性別が出生時と異なる人が戸籍上の性別を変更する五つの要件を定める。この中には生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること(生殖能力要件)や、変更後の性別の性器に似た外観があること(外観要件)を求める規定がある。
 最高裁の決定は生殖能力要件に対し、憲法13条の保障する「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」を制約すると指摘した。一方、外観要件については差し戻して高裁段階での再審理を求めたが、3人の裁判官が「違憲」と判断し、反対意見を付した。
 体にメスを入れるか、性別変更を断念するかという「過酷な二者択一」を迫ることは性的少数者の人権を侵害するものであり、改正を急ぐべきだ。外観要件についても反対意見を踏まえた高裁判断が求められよう。
 特例法施行から19年が経過し、「施行時には、ほぼ世界の標準モデルだったが、諸外国で見直しが進んだ結果『周回遅れ』になった」(京都産業大・渡辺泰彦教授)という現状にある。国内では性同一性障害や性的少数者への理解が広がった。特例法の改正は時代の要請と言っていい。
 生殖能力要件を違憲とした最高裁決定に対し、当事者らでつくるLGBT法連合会は「当事者の人生を大きく改善するもの」と一定の評価を示した上で、外観要件の差し戻しなどについて「課題はまだ残されている」と指摘した。
 一方、自民の保守系議員が組織する「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」は性別変更の現行要件を維持するよう求めている。党内には今回の違憲判断を「受け入れがたい」という声がある。法改正が順調に進む保証はない。
 性多様性の尊重という世界的な潮流から日本が立ち遅れてはならない。そのことを踏まえた論議を求めたい。